2008年以来、東シナ海では尖閣諸島をめぐり日中の緊張が高まっている。米国は領有権につき日中いずれの立場も取らない。日中間で誤算に基づく不測の事態が起きることを米国は強く恐れている。以上がこの海域に関する一般的な情勢認識ではなかろうか。
その東シナ海で現在、米中の衝突に発展しかねない深刻な事態が進行している。少なくとも、各種情報を総合すると、筆者にはそう思えてならない。というわけで、今回は東シナ海における米中関係の実態につき筆者の独断と偏見をご紹介する。(文中敬称略)
各種報道は1つにつながる
尖閣をめぐる日中の「我慢比べ」が長期化するにつれ、中国公船の領海侵犯も、残念ながら、徐々に「常態化」しつつある。
東シナ海をめぐる最近の大きなニュースとしては、7月3日、日中中間線付近の海域で中国が新たなガス田採掘関連施設の建設に着手したという日本政府の発表ではなかろうか。
その後7月11日、米国のサミュエル・ロックリア太平洋軍司令官は記者会見で、中国との間で「国連海洋法条約の排他的経済水域(EEZ)内でどういった活動ができるかをめぐり、解釈に根本的違いがある(a kind of a fundamental difference in the way we interpret the U.N. Law of the Sea Convention of how -- of what activities you should be able to do in an -- in an economic zone)」、「(EEZ内の)活動については、中国が考えているよりも制約は少ないというのが米国の立場だ(the U.S. position is that those activities are less constrained than what the Chinese believe)」と述べた。
報道によれば、同司令官は「自国の設定するEEZ内で他国艦船の活動を厳しく制限しようとする中国の姿勢に異議を唱えた」とされている。7月11日と言えば、例の米中戦略・経済対話(S&ED)終了日だ。同司令官は米国防総省が中国軍との対話でこの問題も取り上げたことも明らかにしている。
さらに、7月17日には北京発ロイターが、中国の国有石油会社が東シナ海で新たなガス田開発計画を中国政府に許可申請すると報じた。当然日本政府は反発し、7月18日、菅義偉官房長官は「一方的に開発するなら認められない」と述べている。
筆者もこれらのニュースはそれぞれ読んで知ってはいた。ところが、今読み返してみると、これらがすべて一連の動きであるらしいことが分かってきたから面白い。きっかけは、7月17日付ワシントン・タイムズの「Inside The Ring」という記事だった。
ワシントンの嫌中記者
ワシントン・タイムズのビル・ガーツ(Bill Gertz)記者と聞いてピンとくる読者は相当ワシントン事情に詳しい方だろう。ワシントン・ポストではない、ワシントン・タイムズだ。このワシントンで発行される日刊紙は一般に「統一協会」系の新聞だと言われている。
それはともかく、ワシントン・タイムズの発行部数は10万部にも満たないはずで、有名なワシントン・ポストの発行部数60万部には遠く及ばない。その論調も、比較的リベラルなワシントン・ポストとは異なり、保守的で共和党系色が強い。誤解を恐れず言えば、ワシントンで共和党関係者が読む新聞ということだ。