中国の小中学校の教科書に「我が国は豊富な資源を有する大国である」と書かれている。中国が面積の広い人口大国であることは事実である。だが、豊富な資源を有する国とは必ずしも言えない。少なくとも1人当たりの資源占有率は世界最下位クラスに属する。

 これと似たような話として「中国には、廉価な労働力が際限なく存在する」という通説がある。長い間、中国ウォッチャーらがそういう指摘をしてきた。だが、ここに来て、中国の労働力は廉価でなくなっただけでなく、不足しつつある。それを受けて一部の研究者は、中国が人口ボーナスを失いつつあり中国経済は高成長から低成長に転ずると指摘する。中には、中国経済が失速すると極論する者まで現れている。

 労働力が際限なく供給されることが経済成長を押し上げることは確かであろう。しかし、労働力が減少しても必ずしも経済成長が減速・失速するとは限らない。

 そして、人件費の上昇が製造業のコスト競争力を低下させることも確かであるが、それによって経済成長が鈍化するとも限らない。なぜならば、経済成長に寄与するのは労働力の供給量のほかに、労働生産性のレベルも重要だからだ。

 中国では、今後、労働力の供給が減少することは必至であり、人件費の上昇も止められない。そのマイナスの部分を克服するために、労働生産性を向上させることがカギとなる。

中国の安い労働市場に安住した日本メーカー

 1990年代半ば以降、日本企業は中国の安い労働力を追い求めて大挙して中国に進出した。当時、日本では円高が進み、国内需要も低迷していた。日本企業は中国に工場を移転し、中国で生産した製品を欧米諸国へ輸出する新たな戦略を展開した。日本企業は中国に進出することによってコスト競争力を維持することができた。

 その後、長い間、中国の人件費は横ばいで推移していた。円高が進む中で、日本企業は中国の安い労働力のメリットを最大限に享受した。

 反対にデメリットもあった。家電など一部の日本企業は中国の安い労働市場に安住したため、グローバル戦略が次第に弱体化してしまった。日本企業とは正反対に、韓国企業は最初から自国市場の弱小さを明確に認識し、中国市場に立脚する戦略を展開した。韓国と中国の国交回復が遅れた関係上、韓国企業の中国進出も日本企業に比べ大幅に遅れた。しかし、韓国企業は後発の不利をチャンスに転換させることができた。