「初めての市民参加型予算編成はブラジルのポルトアレグレ市で1989年に行われたんだよ」

 ハーバード・ケネディ・スクールの「民主主義理論」という授業で「参加型、代表型民主主義のどちらがいいのか?」というグループワークに取り組んでいた時、アルゼンチン人のホセが教えてくれました。

 民主主義というと欧米諸国がリードするイメージがあったので、市民参加型予算編成はブラジルが発祥と知り私は驚きました。

 所得格差が広がり貧困化が進むポルトアレグレ市は、限られた税収の中、市民に課題と現状を理解してもらい、優先順位を共に考えるために市長が参加型予算編成を導入しました。

 ポルトアレグレ市で成功した参加型予算編成はブラジルの他の市や南米諸国にも飛び火し、ヨーロッパ、アメリカへと広がっています。議会制民主主義では民意を反映しきれないという問題を解決する一つの手段として注目されているからです。

 アメリカでは2009年にシカゴ市で、カリフォルニアのバレーホ市では2012年に正式に始まり、サンフランシスコ市でも今年から始まる予定です。そして私が今住んでいるニューヨーク市では2011年から取り組みが始まりました。

NPOが導入を進めたニューヨークの市民参加型予算編成

 国や地域により導入するきっかけは様々ですが、ニューヨークではNPOが議員に働きかけることで市民参加型予算編成が始まりました。

 ポルトアレグレで行われた会議で参加型予算編成に関心のあったアメリカ人の活動家や研究者たちが出会い、参加型予算編成についての資料や情報を提供するウェブサイトを2005年に立ち上げました。

 その後、Participatory Budget Project(PBP)というNPOが発足。参加型予算編成の情報提供イベントを行ったところ、生活困窮者を支援するニューヨークのコミュニティー組織である Community Voices Heard(CVH)が、参加型予算編成は特に政治参加が低い貧困層へのアプローチによいきっかけになるとして、ニューヨークの市議会議員に働きかけ、それに賛同した議員が取り組みを始めました。

 ニューヨーク市の市議会議員は、その選挙区において議員の采配で使い道を決められる設備投資予算を持っています。参加型予算編成に賛同した議員たちは、自分が自由に使える予算のうち100万ドル(約1億円)を選挙区の住民が決められる分としてあてがうことにしました。