米国防総省が中国の軍事力についての年次報告を公表した。5月6日のことである。米国では中国の軍事力の実態について、政府が毎年、包括的な報告をまとめて、議会に送ることになっている。ここもう10年ほど、法律で決められた行政府の義務である。中国の軍事力がそれほど米国にとっても、世界にとっても大きな重みを持つということだろう。米国はまず中国の軍事力の現況が米国自身の国家安全保障に重大な影響を及ぼすからという理由で、この報告を作成し、その大部分を公表しているわけである。この報告が知らせる中国の軍拡の、日本にとっての意味ももちろん大きい。
さて今年の中国の軍事力報告は昨年分にくらべ、まず分量がずっと多く、本文だけで90ページ近くあった。また内容も中国のすさまじい軍事力増強の実情に対して批判的とも言えるトーンで鋭い光を当てている点が特徴であろう。
潜水艦や哨戒艦、戦闘機を増強、宇宙開発にも熱意
まず、その報告の全体像をまとめてみよう。
「中国は軍隊の近代化という名の下で、人民解放軍の大規模で長期の増強を続けている。その目的は、地域的な戦争で短期の集中した戦闘により勝利を収められる軍事能力を完備することにある。その戦闘の目的としては、台湾有事だけでなく、周辺の海洋での領土紛争から遠隔地での平和維持活動まで、グローバルな規模へと広がっている」
「中国指導部は2012年にも人民解放軍の役割と任務の達成のために、新鋭の短距離、中距離の通常戦力弾道ミサイル、地上攻撃、艦艇攻撃両方の巡航ミサイル、宇宙攻撃兵器、接近拒否、地域拒否の能力強化を意図した軍事サイバー能力などの増強に資金の投入を続けた」
「中国人民解放軍はまた2012年に、核抑止能力、遠距離への通常戦力攻撃能力、新鋭戦闘機、遠隔地への兵力投入能力、初の空母配備、統合防空網、潜水艦戦力などの増強をも続けた」
この全体像を背景にして、今回の報告が特に重視する具体的な部分を以下に挙げてみよう。
・中国はウクライナから購入した初の空母「遼寧」に加えて、今後10年ほどの間に国産の航空母艦数隻の建造を意図しており、その国産第1号空母は2010年代後半には実戦配備される。
・中国は潜水艦隊の近代化も優先目標として進めている。弾道ミサイル搭載原子力潜水艦(SSBN)「夏」型がすでに3隻配備されているが、今後10年の間に同型5隻がさらに建造される見通しが強い。
・中国海軍の現在の主力潜水艦はディーゼル機能の「キロ」級攻撃型12隻だが、それに加えて、哨戒潜水艦「宋」型13隻、同「元」型8隻をすでに配備し、2012年中にもその潜水艦隊全般の増強を顕著に進めた。