不動産譲渡にかかわる個人所得税の課税(新国五条)で、中国が今大騒ぎとなっていることは前々回お伝えした。
その一方で、筆者は「これほどまでに国民が税金を納めることに抵抗を持っている」という現実に驚いている。
「不動産の売却益はあくまで“不労所得”。不動産という財産を持つ資産家であれば、納税は当然のこと」といった議論はほとんど見られない。相続税の導入が決まろうものなら、それこそ蜂の巣をつついたような大騒動となっても不思議ではない。
習近平体制では「公平な社会の実現」が大きなテーマとなっているが、それは国民の今の不満が「世の中は不公平だ」という一言に尽きるからだ。公平な社会の実現のカギを握るのが“富の再分配”であり、税制改革はその試金石だと言える。
日本の「厳正な課税」に驚く中国人
中国には「富三代」(fusandai)という言葉がある。3代にわたって代々家が栄える、という意味だが、もう1つのシニカルな意味も込められている。それは「金持ちの子は金持ち」、その逆の「貧乏人の子は貧乏」という意味だ。
一方、日本には「長者三代」や「長者に二代なし」という言い方があると中国人に説明すると、相手の目つきが変わる。「ほう、それはどういう意味かね?」と身を乗り出してくるのだ。「金持ちは何代も続かない」という意味だと言うと、「日本は“先進国”だとばかり思っていたのに、“名家が続かない”とはどういうことか」と聞いてくる。
「金持ちの子供や孫は甘やかされて育つから家が没落する。加えて、日本には相続税があることも大きな原因だ」と説明すると、相手の中国人は「日本の税制は厳しいからね」と、気の毒そうな目を向ける。同時に「中国で相続税が導入されたらそんなことになるのか」と、その先を想像して首をすくめる。
中国では建国当時、相続税の導入が定められたが、実際の課税については保留扱いになった。長らくその状態が続いていたが、今、導入に向けての準備が進められている。
そして日本の相続税について中国人に次のように話すと、目を丸くして驚く。
「皇族であろうが、官僚であろうが、あるいは現金を持たない世帯であろうが、財産を相続した者は例外なく平等に法定税率によって算出された税額が課される。相続税を払うために、土地家屋を売り払うケースは決して少なくない」