日本びいきの友人が、昨年暮れに切り取っておいてくれた「Le Monde」マガジンで、2ページまるまる使って紹介されているニューアドレスに心ひかれた。その名は「MIWA」。
名前と写真からすぐに、日本を前面に押し出したものであることが窺い知れる。
入会金約25万円! その会員制倶楽部では何が提供されるのか
パリ、サンジェルマンデプレといえば、サルトルとボーヴォワール、マルグリット・デュラスらゆかりのカフェなどで有名な、ツーリストにも人気のエリアだが、そのほぼ中心に位置し、記事によれば、どうも普通のお店ではなく、入会金2000ユーロ也(約25万円)の、いわば会員制倶楽部。
ただし、土曜日に限っては一般にも開いているというので、2月のある土曜日にそのアドレスを訪ねてみることにした。
はたして、目指す番地は外観からしてすでに周囲のたたずまいとは一線を画している。白木の扉、庇、白縮緬の幕・・・。そこだけぽっかり古の日本をはめ込んだような格好なのだが、人ひとり分ほどの幅という最小限の間口のせいか、あるいは見過ごしてしまうかもしれないほどに、なにやら透明感さえ覚える存在だ。
一般公開日とはいえ、扉はぴったりと閉ざされ、中の様子はまったく窺い知れない。心もとなさを抑えつつ横の小さなボタンを押す。すると、少し間をおいてから白木の扉が開き、静かな笑みをたたえた日本女性が迎えてくれた。
表の白の世界から一転、扉の向こう側は黒の世界。板壁も敷石も黒で統一したなか、生花と蹲(つくばい)だけが光をまとっている。
「よろしければ・・・」と、すがすがしい香りが立ち上ってきそうな木のひしゃくをすすめられ手を清めたあとには、これもまた触れてしまうのがおそれ多いような真っ白な布巾が、木箱の真ん中で待っている。
このように、すべては本格的なお茶事の前段にも似て、これもまた障子の引き戸から腰をかがめてさらに進むと、衝撃的と言っていいかもしれない異空間が待っていた。
壁も棚もテーブルも目に入るものすべてがヒノキ。つまり総ヒノキの真新しい箱のなかに身を置いたような具合なのだ。