また農政の迷走が始まった。日本の農政は“猫の目行政”(猫の目のようによく変わる)と揶揄されたものだが、TPP交渉に関連してまたしても定見のない動きをし始めた。それは農業の現状を明確に把握しないままに、方針を打ち出すからだろう。病気の原因を特定せずに治療を行うようなものだ。

 ここでは「規模拡大」に焦点を当てる。日本農業が再生しない理由は、農水省が愚かで農協が既得権益に固執しているからだけではない。「規模拡大」を叫ぶ財界人やエコノミスト、マスコミにも問題が多い。

なにも目新しいものではない安倍内閣の農政

 安倍内閣は、TPPを推進するにあたり農業を成長産業にすべく改革を進めるそうだ。農産物の輸出額を1兆円にするとの目標を掲げている。

 ただ、目標が低すぎる。1ドル100円として計算すると、FAO(国際連合食糧農業機関)の調べでは、小国のオランダでさえ7兆7000億円もの農産物を輸出している(2010年)。一方、日本は3200億円に過ぎない。それは韓国(3800億円)の後塵を拝している。

 ついでに言うなら、中国やインドが発展すると世界中から農産物を買いあさるようになり、それが原因で日本が食料危機に陥ると言われているが、中国は3兆6000億円、インドも2兆円もの農産物を輸出している。日本で語られている世界農業に関する話は、どこか狂っている。

 そんないい加減な情勢分析に立って農政を語るからおかしくなる。今回も、改革案として出てきたものは「規模拡大」である。1戸当たりの農家が保有する農地を広げようというのだ。

 しかし、それは長年言われ続けてきたことである。なにも目新しいものではない。先の小泉改革の際にも声高に叫ばれている。しかし、あの日本中が熱狂した小泉改革でさえも「規模拡大」を実現できなかった。

育てるべきは野菜農家や畜産農家

 ここで重要な事実を伝えたい。それは現代農業においては、土地が制約条件にはなっていないことである。