米国が中国と日本との軍事衝突を真剣に恐れるようになった。オバマ政権が「アジア最重視」の新政策を打ち出し、アジアでの抑止力の強化策を表明したばかりなのに、皮肉にもその米国の抑止力を突き崩すようなアジアでの戦争の危機が懸念されるようになったのだ。

 米国のこうした切迫した懸念は大手メディアの報道や評論でまず伝えられるようになった。オバマ政権自体がその懸念を深めるようになったというのである。

 契機はやはり中国海軍艦艇による日本の自衛艦への射撃管制用レーダー照射だった。明らかに中国側の挑発行動による緊迫のエスカレーションなのだが、米国としては中国を一方的に非難して、日本への支援だけを述べるわけにもいかず、深刻なジレンマに直面しているというのだ。

 中国の艦艇の射撃管制用レーダーの照射の報道は米国のメディアでも幅広く流された。米国ではこの種のレーダー照射は完全に軍事行動と見なされる。そもそも日本語での「レーダー照射」というのも特に事態の穏便化を狙ったような表現で、ことさらソフトに響く。実際はミサイルなどの発射を準備して、その標的を捕捉するレーダー放射なのである。つまりは実際の攻撃のための標的捕捉なのだ。

「軍事衝突の危険が高まった」と警告

 米国大手紙のワシントン・ポスト2月5日付は「アジアの島紛争での米国の利害」と題する評論記事を掲載した。筆者は同紙の元北京駐在特派員ジョン・ポンフレット氏だった。同氏は現在、中国についての著書を執筆中だが、北京駐在時代は数々のスクープ記事を放ったことでも知られている。同氏は北京から寄せた記事で以下のように述べていた。

 「東シナ海での中国と日本との緊迫は米国の問題でもある。『戦争は誰も望まないから起きない』とか『経済を考えれば、戦争が起きるはずがない』という戦争否定の言明がいろいろとなされている。しかし東アジア地域の歴史やこの種の危機への対処の規則不在を考えると、現実的には愚かなミス1つが戦争を起こし得ることが分かる」