およそ40年前のこと、青年、竹内利幸は、スイスの建築界で働きたいと海を渡った。ところが、仕事が見つかるまでと思って軽い気持ちで始めた陶芸にはまってしまった。

 以来、制作方法を少しずつ学び、自分の作風を探し続けて長い時が過ぎた。5年前に、世界中から多数の応募があるスイスのカルージュ国際陶芸コンクールで、グランプリに輝いた。

 来年で14回目を迎える同コンクールで、日本人で最高の賞を得たのは竹内だけだ。でも、実はこれまで悩みながら歩んできたのだという。(文中敬称略)

建築で食べていくつもりが、陶芸の世界へ

カルージュ国際陶芸コンクール2007年度のテー マは「水差し」。53カ国・721作品から、最高の賞 le Prix de la Ville de Carouge に輝いた竹内利幸さんの作品「ポーズ」。審査員全員一致で、竹内さんの作品を選んだ。同コンクールは2年毎の実施(写真©atelier-TAKEUCHI 以下特記した以外も)

 竹内はローザンヌから電車で10分ほどの所に、スイス人の妻と暮らしている。自宅に隣接したアトリエは、ものすごく広い。2階建てで、窯やろくろ、道具類はもちろん、制作途中の品から完成品の数々まで所せましと作品が置いてある。

 「こんなに大きくて使いやすいアトリエを持てるのは、本当にラッキーなことですよね」。アトリエを見せてくれながら、竹内は言う。

 1974年、スイスにやって来た竹内の目的は、建築の仕事に就くことだった。日本で建築を学んだ後のことだ。だが第1次オイルショックを受けてスイスの経済状態は極めて悪く、言葉(当時はスイスドイツ語圏にいた)も不十分。簡単には見つからなかった。

 とりあえず、新しく何かを学んでみようと趣味的に選んだのが陶芸だった。美術学校に入って勉強したわけではない。

 見よう見まねで始めたら、知りたいことがたくさん出てきた。それで日本に戻って陶芸家の元でろくろ技術を学んだり、再びスイスに来て著名な陶芸家の所に住み込みで修業させてもらったり、陶芸の学校で特別受講生になったりと、自分に必要な技術をあちらこちらで学び取った。

 その後、いくつかの陶芸家のアトリエで制作を続け、数年後、竹内は最初の自分のアトリエを構えた。