尖閣諸島を巡る日本と中国の紛争への米国の対応について、いくつかの角度から報告してきた。
この米国の対応に対し、ごく最近、米側で日本の領有権支持を明確に打ち出すべきだとする意見が相次いで出てきた。いずれも民間の識者からだが、米国政府の元高官も含まれており、注目すべき現象である。
ニクソン以来「中立」の立場を貫いてきた米国政府
米国政府の尖閣問題に対する態度は、すでにこのコラムでも何回も書いてきたように、「尖閣には日米安保条約は適用されるが、主権については立場を取らない」という趣旨である。つまり主権、領有権に関しては日本と中国のどちらにも与しない中立だというわけだ。
ただし米国の歴代政権でも1950年代のアイゼンハワー、そして60年代に入ってのケネディ、ジョンソン両政権、さらには70年代のニクソン政権の当初までは、みな尖閣諸島への日本の潜在的主権、つまり「残存主権」を明確に認定してきた。尖閣諸島の主権、領有権は日本以外の国には帰属しないという認識だったのである。
それが「中立」へと変わったのはニクソン政権の中ごろからだった。71年10月に米国議会上院が開いた沖縄返還協定の批准に関する公聴会では、ニクソン政権の代表たちが「尖閣の主権についてはどの国の主張にも与しない」と言明したのだった。つまりは「中立」である。
オバマ政権も尖閣の主権に関しては「中立」である。同時に「日米安保条約の尖閣への適用」を言明しているから、もし尖閣が攻撃を受ければ、日本を支援して防衛行動を取る構えは明白だろう、というわけだ。だが公式の言明では「安保条約の適用」という無機質な表現の域を決して越えない。日本側からすれば、その点に曖昧さ、ひいては不安が残ることになる。
日本でも外務省の元国際情報局長までが「尖閣が中国の攻撃を受けても米国は日本を支援しない」と述べて回っている。一般国民の間に、米国はなぜもう一歩進んで、尖閣防衛の誓約を明言しないのか、という疑問が湧くのは自然だろう。
ワシントン駐在の新しい日本大使に任命された佐々江賢一郎前外務次官も、最近の日本の新聞のインタビューで、米国の見解について次のように説明した。
「米国政府が尖閣主権について特定の立場を取らないということは、中立ということではない。日米安保条約が尖閣諸島にも適用されるとの明確な立場を取ることは、日本が武力の攻撃や脅威に直面した場合、米国も十分な対応をするというのだから、中立ではあり得ない、という意味だ」
こんな言葉の背後にも、米国に日本の支援をもっと明確に表明してほしいという期待があると言えよう。