経営力がまぶしい日本の市町村50選(4)
ニセコ町、倶知安(くっちゃん)町に続いて、この地域で3番目に紹介するのが真狩(まっかり)村。ニセコ町とは西で接し、倶知安町は真北に位置している。ニセコ町や倶知安町のように、スキー場として人気のニセコアンヌプリ山に接していないので、観光業で村おこしするのは難しい。
高級食材「ゆり根」の大産地
そこで考えたのが、得意の農業にさらに磨きをかけて、安心・安全でおいしい食材を観光客でにぎわうニセコ町や倶知安町に供給する戦略だった(もちろん、札幌など道内の大都市や本州、四国、九州も大切なお客さんなのは言うまでもない)。
真狩村で栽培されている代表作物が、高級な食材として和食店には欠かせないゆり根。北海道は日本全体の98%の生産量を誇るが、その4割が真狩村で栽培されている。つまり日本産ゆり根の約4割が真狩産ということだ。
ゆり根は非常に手間のかかる作物で、球根を作り始めてから収穫までに丸5年もかかる。農業に心得のある人でも簡単に始められるものではなく、やや大げさに言えば、農業のプロ中のプロだけが栽培を許された作物である。真狩村にある140戸の農家のうち実に119戸でゆり根が栽培されているという。
真狩村の広さは約114平方キロメートル。関東なら小田原市とほぼ同じ。ここに農業を生業として約2000人の住人が暮らす。ただ、日本全体の問題として、ここでも少子高齢化の波は避けて通れず、また嫁不足の問題もあることから、農家の戸数は減少傾向にある。
佐々木和見村長によると、現在の140戸は近い将来に100戸ほどに減るだろうとのこと。しかし、真狩村がすごいのは、農家の戸数が減っても耕作放棄地が全く生まれないことだ。
後継者がいなくなった農地は、ほかの農家の人たちが買い取ってしまうのだ。「異業種参入で農家をやりたいという人が村役場に相談によく来るのですが、買ってもらえる農地がないんですよ」と佐々木村長。
つまり、真狩村では強い者がさらに強くなっていくという経済原理が働いているのだ。農業を守るのではなく、攻めて強くする。
この競争原理こそ、あらゆる産業で発揮される強さの源泉だ。補助金頼りの守りの姿勢とは180度違う農業の姿がここにはある。
この人口2000人の村には農業のほかにも全国に誇れるものがある。最高級のフレンチレストランだ。詳しくは後述するが、マッカリーナと言われて、「ああ、あれか」と思い出される人も多いのではないだろうか。
洞爺湖でサミットが開かれたとき、世界のファーストレディーたちが集ったレストランである。最高級の食材と最高級のレストラン。この組み合わせは実は大切である。
かつてトヨタ自動車がレクサスを、日産自動車がインフィニティーを世に出す際には、生産ラインの人たちを米国に派遣して高級車を乗り回す人たちの生活を体験させたという。最高級の料理を味わってこそ、最高級の素材を作ることができる。