中国が10月に入り、2度にわたって海軍艦船を尖閣諸島海域で航行させた。1度目は16日、旅洲級駆逐艦など7隻の艦隊が魚釣島の南西約80キロメートルまで接近し通過した。2度目は23日、中国版イージス艦と呼ばれる旅洋2型駆逐艦など3隻が宮古島の北東約130キロメートルの海域を北上した。中国国防部はこれを「通常訓練」としているが、尖閣諸島の領有権を巡って日本側にプレッシャーをかけるためのデモンストレーションであることは明らかだ。
しかし、もしかしたらそれ以上の狙いがあるのかもしれない。
もちろん、「海監」「漁政」などの中国公船による尖閣海域での航行も執拗に続けられており、海上保安庁の巡視船とのにらみ合いも継続中だ。そこにきて今度は中国海軍の登場である。中国が尖閣諸島の現場における緊張のレベルを上げようとしているように見える。その意図するところは何なのだろうか。いくつかのシナリオを想定してみたい。
3つのシナリオで読み解く中国の狙い
まず第1は、尖閣諸島における日本の実効支配の事実を否定することである。尖閣諸島の領海に侵入した中国公船に対し、海保の巡視船が退去を求めても、逆に中国公船から「ここは中国の領海であり、退去すべきはそちらの船だ」と言い返される現状がある。
無人島のまま放置してきた尖閣諸島で、日本の実効支配を証明するのは海保の巡視船による外国船舶の接近取り締まりの実態しかない。いずれ中国海軍艦船が日本の領海を侵犯し、それを警告する海保の巡視船に「領海を侵犯しているのはそちらの船だ。退去せよ」と、日本の実効支配を否定してかかることで中国は日本の実効支配を打破しようとしている。
第2は、中国が海軍艦船を尖閣海域に頻繁に出没させることで海上自衛隊の艦船をおびき出すことである。中国海軍と海上自衛隊の艦船が直接的に対峙することによって、同海域における緊張のボルテージは否応なく上がる。緊張のボルテージが上がれば、国際的な関心も高まる。マスメディアは、日中が尖閣海域で「一触即発」の状態にまで高まったと報じるかもしれない。
このように緊張を高める中国の狙いは、海上自衛隊と一戦を交えるというよりも、米軍の出方を窺うことにある。日本支援に積極的に動くのか、それとも主権問題には関わらないという「中立」を保つのか。このときの米軍の対応次第で、中国はその後の対応策を構想し得る。