韓国の中堅財閥である熊津(ウンジン)グループの持ち株会社である熊津ホールディングスと傘下の極東建設は2012年9月26日、資金難のためソウル中央地裁に企業再生手続き(法定管理、日本の民事再生法に相当)を申請した。

 無理なM&A(企業の合併・買収)で資金繰りがつかなくなった典型的な「景気後退期の中堅財閥破綻劇」だが、直前のオーナー会長の行動が金融機関の怒りを買っており、再生の行方は不透明だ。

 2012年4月に公正取引委員会が発表した「財閥資産規模ランキング」によると、熊津グループは資産規模9兆3000億ウォン(1円=14ウォン)で、韓国31位の中堅財閥だ。資産規模はさほど大きくないが、浄水器のレンタル事業などを手がける熊津コーウェイなど高収益企業を傘下に抱え、比較的堅実経営として知られた。

オーナーは百科事典を売りまくった「伝説のセールスマン」

韓国の1人当たりGDPは今は2万ドルを大きく超えている(写真はソウル市内)

 設立は1980年で新興財閥でもある。韓国の財閥には、「伝説」を持った創業者がつきものだが、この熊津グループの創業会長である尹錫金(ユン・ソクキム)氏(66)は「伝説のセールスマン」として有名だ。

 教育都市である忠清道公州(コンジュ)出身の尹錫金氏は建国大学経済学科を卒業後、「ブリタニカ」百科事典のセールスマンになる。1970年代初めのことだ。

 当時の韓国はまだ1人当たり国内総生産(GDP)が200~300ドルで、百科事典を買うのは一部富裕層に限られていたはずだった。

 ところが、尹錫金氏は「貧しくても子供には最高の教育を受けさせたい」という韓国人の気質に訴えかけ、1年365日、全国を回って圧倒的な販売記録を更新し続けたという。

 10年余に及ぶトップセールマン時代に貯めた資金で出版社を設立したのが起業家としての第一歩だった。その後、化粧品会社や浄水器会社を次々と設立して成功させ、あっという間に中堅財閥オーナーにのし上がった。

 熊津というのは、出身地の公州の古い地名に由来している。

 特に一般住宅や店舗・オフィスなどに浄水器や空気清浄機などをレンタル・販売する熊津コーウェイは、2011年に売上高1兆8244億ウォン、営業利益2332億ウォンを稼ぎ出した超優良企業だ。