「安価な人件費の製造拠点」「成長著しい巨大市場」として20数年もの間、日本企業の海外進出を独り占めしてきた中国だが、いよいよ「脱中国」が現実味を帯びてきた。
高騰する人件費に加え、頻発する労働争議、翳りを見せ始めた経済成長、広がり続ける貧富の差など、中国は今あらゆる問題が顕在化している。日本企業もここ数年、中国一辺倒から拠点を多元化する動きにあり、「BRICs」の一角であるインドやアセアン諸国に拠点分散を急ぐ傾向にあった。
そして、いよいよ「待ったなし」の局面にぶち当たる。決定打は、9月に大規模化した中国各地における反日デモと、反日感情の極度の悪化だ。
以前から叫ばれていた「チャイナリスク」が現実のものとなった今、日本企業の向かうべき先はどこなのか。今後、どことタッグを組んで生存すべきなのか。
筆者は反日に気勢を揚げる中国から、「親日国バングラデシュ」の首都ダッカに飛んだ。いまなぜバングラデシュなのか――。筆者はバングラデシュで出会った多くの人たちにこの問いを投げかけてみた。
貧しいのは「政治が機能しないから」
バングラデシュの首都ダッカは、ひとたび外に出れば、人、人、人だ。
人口13億人を抱える中国の大都市・上海といえどもこれほどの人はいない。道路は人を運ぶ乗り物で溢れ、自家用車や路線バスの隙間をリキシャやCNG(天然ガスで走る小型タクシー)が埋める。まさに人間と乗り物の洪水だ。
朝の通勤ラッシュ時には、路上で30分以上、乗り物がビクとも動かない。額からも背中からもじわーっと汗が流れる。
遊園地の乗り物のように小さいCNGは、走行中は鉄格子から風が吹き抜けて快適だが、停止すれば檻の中の蒸し風呂状態。慌ててももがいても、動かないものは動かない。その事実を頭に叩き込んで初めてダッカでのビジネスが始まる。
ダッカの街は、マスタープランを描けない政府にジリジリした住民らが勝手にいじり始めたかのように、あちこちが“つぎはぎ”だらけだ。グチャグチャに絡まった電線が象徴するように、ダッカの都市計画もどこから着手していいのか誰にも見当がつかず、手の付けようがない状態である。
停電も日常茶飯事で、筆者もインタビューの最中に何度も経験した。歩道の舗装も不十分で、バリアフリーどころの騒ぎではない。ここでは車椅子も車道を走る。
すぐそこに買い物に行こうと歩けばリキシャの車夫の「乗らんかね」に遮られ、食品スーパーにタクシーを走らせれば、窓からは物乞いの子どもたちの手が何本も入ってくる。