イタリアのクレモナは、バイオリン製作のために世界中の人々が学びにやって来ることで知られる。

 日本にも「どうしてもクレモナで!」と究極の地を目指す人はいる。製作を学んだら、次の目標は独立し、自分のバイオリンを作って売ることだ。そんな夢をかなえた日本人の1人をスイスで見つけた。(本文敬称略)

「バイオリンもギターも」の希少な職人

手掛けたビオラを手にする濱﨑陽二郎さん(こちらの価格は約120万円)。子どもの顧客もいるが、濱﨑さんの作った楽器は積極的には薦めないという。理由は、楽器に備わる音をまだ引き出せないから(特記した以外は筆者撮影)

 濱﨑陽二郎は、スイスでバイオリン製作者として自身の工房を構え、生活している。開業して5年が経った。濱﨑が普通のバイオリン職人とは少し違うのは、良質なギターも作れることだ。

 「有名な職人アントニオ・ストラディバリはバイオリンがメインでしたが、ギターも含めて実は何でも作っていたんです。でも今は、バイオリン作りとギター作りは専門化されていて、みんな1つの楽器にしぼって作っています。イタリアでは両方を手掛ける人はほとんどいません」

 バイオリンは、演奏を教える教師、音楽専攻の学生からの注文が多いという。ギターはスイスのギター専門店に卸したり、個人から注文を受けている。

 濱﨑は日本で展示会などを開いているわけではないが、風の噂で聞きつけて「是非とも濱﨑に」と日本から注文する人もいるそうだ。

 つい最近は、オンラインショップも開設した(現在、ドイツ語のみ)。新規に1台作るのに約2カ月の時間を費やしている。

本体を衝撃から守る壁の役割を担うパーフリング(本体の縁にあるライン部)は、溝を彫って細い木を埋め込んである。パーフリングには非常に高度な技術が必要で、濱﨑さんの細工には目を見張る(写真提供 Hamasaki Geigen und Gitarren)

 濱﨑が2種類の弦楽器を作るようになったのは、師匠が両方の製作に携わる著名な人だったからだ。その師匠とは、ロレンツォ・フリニャーニだ。

 フリニャーニはイタリアのモデナに住み、イタリア弦楽器製作者協会副会長を長年務め、国内外で賞賛される楽器を作り続けている。

 「ストラディバリがクレモナで活躍し、ヨーロッパの弦楽器製作の頂点に達した時代は黄金時代と言われます。その後、第2の製作ブームが別の地域エミリア=ロマーニャ地方(ボローニャ、モデナ、パルマなど)を中心に興りました。フリニャーニは第2のブームの最後の職人たちと直接交流があった人です。

 ギターの方は製作に加えて、貴重な19世紀イタリアンギターのコレクションを持ち、鑑定もし、その名をギター業界に知らしめています。両方の楽器を非常に高いレベルで作れるので、とても有名なんです。ある町で、バイオリンとギターの製作コースも立ち上げています」

 濱﨑は、クレモナのI.P.I.A.L.L.国立バイオリン製作学校を修了した2004年夏、フリニャーニに弟子入りした。濱﨑の前に現れた大きなチャンスだった。