HBO(Home Box Office)は、米国タイム・ワーナー傘下のケーブルチャンネルで、現在会員が世界で9300万件(米国内は5340万件)もいる。

マンハッタンのHBOショップ(著者撮影、以下同)

 「セックス・アンド・ザ・シティ」や「ソプラノズ」といったオリジナルドラマや、ヘビー級ボクシングのペイパービューなどで人気のあるチャンネルだ。

 実際、米国のケーブルテレビや衛星放送が加入キャンペーンをするときに、よくHBOが使われる。テレビCMや家電売場で「いま加入したらHBOが3カ月無料」といったコピーをよく見る。それほど、人気のあるチャンネルである。

 しかし、2010年HBOの米国加入者は160万件減少した。なぜだろうか?

ネットフリックスのイノベーション「低価格と利便性」

 その原因の1つは、ネットフリックスやフールーといった新たな映像配信プラットフォームのイノベーションにある。彼らは、月額8ドルの低価格でVODサービスを提供した。ケーブルテレビの視聴料が月額100ドル近いことを考えると、破壊的な価格なのだ。

 その8ドルで、視聴者はケーブルテレビよりも自由に番組を見られる。巨大産業であるケーブルテレビへの不満を解消するイノベーションである。

 この「月額定額制のVOD」を、SVOD(Subscription Video On Demand)と呼ぶ。SVODの確立が、ネットフリックスのイノベーションの1点目である(SVODの紹介は、前回のコラム参照)。

 2点目は、ネットフリックスがスマートテレビやスマホ、タブレットといったスマート機器へいち早く映像を配信したことである。

 2007年に米国でアイフォーン(iPhone)が発売され、2011年にはスマートテレビが発売された。こうしたスマート機器は便利であるが、問題は「誰がコンテンツを提供するのか?」という点だ。メーカーもコンテンツがなければ、自社の機器を売るのに困るだろう。

 スマートテレビという名前がまだなかった2009年頃、ヤフーの配信プラットフォームは存在したが、映画コンテンツは集まっていなかった。映画スタジオは積極的にスマホやタブレットにコンテンツ配信を行っていなかったのである。

 そこで、宅配DVDビジネスからストリーミング配信へと比重を移していたネットフリックスが、スマート機器へのコンテンツ配信役として注目されたのである。

 あれからiPhoneは全世界で2億台が売れた。そしてネットフリックスに入れば、1つのアカウントでテレビでもスマホでも映像を楽しむことができるようになった。こうした「低価格と利便性」を映像市場に持ち込むことで、ネットフリックスは成長したのである。