ジャズと言えば本場はもちろん米国。だが毎年7月開催で盛り上がるフランスのアンティーブ・ジャズフェスティバルやスイスのモントルー・ジャズフェスティバルなど、ヨーロッパでもジャズの歴史は古い。(敬称略)

 ジャズの第二の故郷とまで称されるこの地に、「このバンドなしにジャズは語れない」と大絶賛される風変わりなプロのジャズバンド、スウィング・キッズがある。演奏者が、なんと小学生から高校生までの子供なのだ。

 しかも、その指導者が日本人というから注目度はさらに高まる。

14名のフツウの子供たちと、“不真面目な”指導者

 スウィング・キッズを初めて知ったのは、数年前のテレビの音楽番組だった。アコーディオンやヨーデルといったスイスの伝統音楽のミュージシャンたちが中心に出演する人気長寿番組を何気なく見ていたら、突然、子供のジャズバンドが演奏し始めた。

スウィング・キッズは今年で結成10周年。バンドを卒業する子供がいてメンバーは随時入れ替わっているが、ダイナミックな表現は変わらない。右端が木元大さん(写真提供:musicplay.ch、以下注記が無いものは同様)

 この番組でジャズなんて珍しいと思ったが、本当にとてもうまい。これが子供のバンドというのが信じられなかった。

 子供たちのかたわらにはアジア系の男性が1人いた。

 腕を動かして拍子を取っているので指導者なのだと分かった。しかし指揮者というよりも、演奏している曲に乗って、ただ上機嫌で踊っているように見えた。堅苦しさや緊張が微塵も感じられない変わった指揮者だ。

 演奏が終わると、司会者が「やあ、Dai」と指導者に話し始めた。スイスの方言で、スタジオの大勢の観客を前に上がった様子もなく受け応えしたその男性が、日本人だと知って驚いた。元トランペッターの木元大だ。

 スウィング・キッズは、木元がちょうど10年前に作った。米国のグレン・ミラー・フェスティバルなどの大舞台を始め、フランス、ドイツ、アルゼンチン、そして日本でと世界中で引っ張りだこだ。

日本、イギリス、ドイツ、イタリア、スイスとトランペット一本で生きてきた木元さん。管楽器なら何でもござれの稀な才能も持ち合わせている

 「冬に少しだけ休憩しますが、本当に信じられないくらい猛烈に忙しいです。みんながスウィング・キッズを聴きたいと言って」と木元。

 スイス各地でも演奏していることは知っていた。とはいえ、バンドの公式サイトには木元が強調するほどの出演予定は告知されていない。

 聞けば、公表している以外にも、恵まれない子供たちのためのチャリティー、企業のパーティー、舞踏会やダンスクラブのためにも演奏し、ときには月10回以上の本番を抱えることもあって、予定が目一杯なのだという。