鳩山由紀夫首相の最優先の政策課題として2010年5月14日にとりまとめられた「新しい公共」の宣言案は、12年前に結ばれたある協約の「焼き直し」のように見える。

 それは、1998年にブレア英労働党政権が非営利セクター代表と共同署名した協約である。それなのに、今回の宣言案からはブレア政権の協約には存在した重大な要素が欠落している。「非営利団体側が何を約束するか」という問題である。

官邸に高揚感、鳩山首相は「仏語や英語でも発信しよう」

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鳩山政権、「新しい公共」は最重要課題の1つ(参考写真)〔AFPBB News

 2010年5月14日夕――。首相官邸4階の大会議室は大きな安堵感に包まれていた。今年1月から4カ月にわたり、「新しい公共」円卓会議を構成する非営利セクターの代表者と鳩山首相、仙谷由人・国家戦略担当相、枝野幸男・行政刷新相らが練り上げた公共サービスの新しい形を宣言文にとりまとめることができた瞬間だった。

 「一時はどうなることかと思いました」と座長を務めた金子郁容・慶大大学院教授が正直な感想を吐露すれば、鳩山首相はこの宣言案は国家にも市場にも頼らない新しい公共の理念だと自賛し、フランス語や英語でも発信しようと呼び掛けた。

 すると松井孝治官房副長官から、地方でもこの宣言を広報する会議を是非やるべしとのメモが発言中の首相に入り、首相はそのまま発言した。会議出席者はすぐに賛同して、大会議室にはちょっとした高揚感が生じていた。

 「新しい公共」とは、2009年10月の施政方針演説で鳩山首相が打ち出した最重要政策課題の1つである。演説によれば、それは「人を支えるという役割を『官』と言われる人たちだけが担うのではなく(中略)地域で関わっておられる方々一人ひとりにも参加していただき、それを社会全体として応援しようという新しい価値観」を指す。

 国民生活の現場では、政治の役割はさほど大きくない。だから、市民やNPO(非営利法人)の活動を邪魔する役所の仕事や予算を抑え、各種規制を取り払って市民やNPOの活動を側面支援することを目指しているのだ。

円卓会議にほぼ毎回出席した首相、打ち出された寄付税制の見直し

 施政方針演説で打ち出された大方針に沿い、2010年1月に「新しい公共」円卓会議がスタートした。

 日本各地で注目されるNPOやソーシャルエンタープライズの活動を行っているリーダーや、NPOとの協働を積極的に進める地方自治体の現職・元職の首長、そしてCSR(企業の社会的責任)活動に熱心なエグゼクティブがメンバーとなり、熱心に議論を重ねてきた。鳩山首相もほとんど毎回出席する精勤ぶりを示し、官邸がいかにこの政策課題を重視しているかがうかがえる。

 5月14日にとりまとめられた「新しい公共」宣言案では、新たな公共の理念が示された。同時に、政府に対する具体的提言として(1)社会福祉法人などへの寄付に対する税額控除の導入 (2)認定NPOの仮認定制度の導入 (3)NPOの税額控除対象の認定に関するPST(パブリック・サポート・テスト)基準の見直し――など寄付税制の見直しが主軸として打ち出されている。