去る5月16日、エコノミスト・カンファレンスは東京で第3回目となる「ベルウェザー・シリーズ 日本―アジア・グローバル金融の現状と未来」を開催した。

 欧州のユーロ危機、円高の長期化、日本の逼迫した財政状況など、日本と世界の金融をめぐる環境に関し、IMF(国際通貨基金)やフィナンシャル・タイムズ紙、日本政府、金融セクター関係者、学界などの有識者による議論が交わされた。その中から4つのセッションをピックアップし、今日から4日連続でリポートをお送りする。

 第1回は、『ブリーフィング:グローバル金融の動向』と題されたセッション。登壇者は榊原英資 青山学院大学教授とメリルリンチ日本証券の大槻奈那氏。

欧州の財政危機は南欧だけではなく、仏独も深刻な状況

榊原英資 青山学院大学教授(写真提供:エコノミスト・カンファレンス、以下同)

榊原 現在のユーロ危機について、私はかなり構造的なものだと思っております。

 オスヴァルト・シュペングラーが1918年に『西洋の没落』という本を書いていますが、彼が生きていれば再び『西洋の没落』を書くのではないでしょうか。

 ヨーロッパは戦後、労苦を重ねて統合しながら復興、再建してきたわけですが、それがここに来て逆転し始めたというのが私の認識です。

 統合において東ヨーロッパやバルト三国、あるいは南ヨーロッパといった比較的経済の弱い、財政基盤の弱い国々を入れてきた結果、アメリカの金融危機を発端にそれらの国々が脱落し始めたという状況だと思います。

 さらには、年金のようなポテンシャルな赤字まで入れると、実はフランスもドイツも非常に悪い。

 ですからヨーロッパのほとんどの国が非常に深刻な財政状況にあります。ヨーロッパの危機は、いずれ銀行の問題に波及する。つまり財政、金融の複合危機になるだろうと思います。

 一方、アメリカの危機は、金融システムの崩壊です。それによって経済がおかしくなった。ある意味では金融バブルが破裂したということだろうと思います。それが2007年、2008年に起きたことです。

 だからアメリカの危機とヨーロッパの危機は若干違うものだと認識しています。アメリカの景気回復については、順調に推移することはおそらくないと思います。

 場合によっては二番底をつける可能性もあり、ヨーロッパ危機も続くでしょう。通貨に関して言えば、現在ユーロ安、ドル安ですが、円高がしばらく続き1ドル75~83円のレンジで推移するだろうと見ています。

大槻 米国と欧州の危機の性格は確かに違いますが、これだけ近い時期に2つの大きなクライシスが起こったということは、あとから起こった欧州の危機は大なり小なり米国の影響が反映しているのだと私は思います。

 そして、その2つの危機の結果、金融界は現在、“バーゼル3”元年ということで、レギュレーション(規制)の強化の真っただ中にあります。

 過去を振り返って見ますと、資本規制というのは危機があると、その直後にだいたい強化されており、その意味では今回も普通の流れを歩んでいるのではないかと思います。