1.はじめに

 我が国の国家中枢危機管理態勢は、阪神淡路大震災や地下鉄サリン事件等を契機として、それなりに整えられたが、未だに問題山積である。

 組織体制上の問題も然ることながら、組織等を機能させるべき危機対処訓練が全くなされていないことも問題である。それらが露呈し、日本の国家中枢危機管理の脆弱性を内外に示したのが、東日本大震災である。

2.我が国の国家中枢危機管理態勢の状況

(1)我が国の国家中枢危機管理は、各省庁で対応できる場合を除き、内閣総理大臣を直接補佐する内閣官房が総合調整機能を有し、内閣官房副長官補(安全保障・危機管理担当)が所掌している。

内閣官房HPから転載
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 その体系は右図の通りである。

 官房長官のもとに、3名の内閣官房副長官が置かれ、その内訳は、政務担当として国会議員2名、事務担当として通常事務次官経験者1名となっている。

 尚、内閣官房長官及び副長官を補佐し統理する者として「内閣危機管理監」が置かれているが、任務は「国の防衛に関するもの以外の危機管理」とされている。

 内閣情報官は、内閣の重要政策に関する情報の収集及び分析その他の調査に関する事務を担当しており、次長及び総務部門、国内部門、国際部門、経済部門、内閣情報集約センター並びに内閣衛星情報センターが分担・処理している。大規模災害等の緊急事態に関する情報は「内閣情報集約センター」、防衛および大規模災害に関する衛星情報は「内閣衛星情報センター」が処理する。

 国防に関する重要事項および重大緊急事態への対処に関する重要事項を審議する機関として、「安全保障会議」があり、内閣総理大臣と一部の国務大臣により構成される。また、議長・議員を補佐する者として幹事が、調査分析を進言するための会議内組織として「事態対処専門委員会」が、それぞれ設置されている。安保会議の事務は「内閣官房副長官補(安危担当)が行っている。

内閣官房HPから転載
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 これらの組織を運用しての初動対処は右図の通りである。

 原子力災害の場合、原子力事業者からの原子力緊急事態(15条事態)の通報を受けた場合には、首相は、直ちに考慮の余地なく「原子力緊急事態宣言」を発し、自身を本部長とする「原子力災害対策本部」を設置することとされている。本対策本部の事務局は経産省緊急時対応センター(ERC)に置かれることになっており、保安院長が事務局長として事務的な司令塔の役割を果たす。この場合においても、安危担当の内閣官房副長官補が所掌することとされている。

(2)現状の危機管理体制の問題点は?

 我が国の中枢危機管理体制を概観したが、以下のような問題点があると考えられる。

ア. 木に竹を接ぎ、鉄で補強しようとした感じだ。トータルとして如何にあるべきかを考えて組織体制をデザインしたものではなく、その時々の必要性と各省庁のせめぎ合いの中で生まれたのではないかと思われる。