不思議な話である。国民があれだけ熱狂して小泉純一郎元首相による“郵政解散”を支持しておきながら、4月、国会ではその改革を骨抜きにする法案が静かに通ってしまった。このことに対して日本国民の怒りの声はほとんど聞こえてこない。
恐らく、日本のことより自分の地位保全を最優先することが見え見えになってしまった政治家に対して「何を言ってもムダ」という絶望感に近いものがあるのではないだろうか。
政治を批判してもむなしくなるだけ・・・
小泉改革の名演出者であり名役者でもあった竹中平蔵・慶応義塾大学教授は最近、幻冬舎から『竹中式 イノベーション仕事術』という本を出版した。この本を出版することにした理由をまえがきの中でこう述べている。
「政治の無策には怒りを覚えますが、しかしここまできたら、もう一人ひとりががんばって生きるしかないと思うようになりました」
日本を思い改革に意欲を燃やしてきた竹中教授をしてこう言わしめるのだから、日本の政治はこういう言葉を使うのが甘すぎて嫌になるくらい「地に落ちている」。しかし、絶望していても良いことは何一つない。
だから、せめてと言うか、自分はともかく子供たちの世代を守るためには何かをしなくてはという気持ちでこの本を出版した竹中さんには、大変な共感を覚える。政治家は時間を浪費しても何ら痛痒を感じないだろうが、若者にとって時間はとても大切だからだ。
その昔、「末は博士か大臣か」と言われたものだが、いまとなってはこう言い換えられるのではないだろうか。「時間を大切にしてやるべきことをしておかないと、あの大臣のようになりますよ」と。
失敗の始まりだった「安倍晋三・元首相を大切に育てる」
さて、この本はいわゆる自己啓発本ではあるが、「失敗の研究」として読んでも楽しい。とりわけ私が面白く感じたのは安倍晋三・元首相のくだりである。
安倍首相は小泉改革の継承者として鳴り物入りで登場した。しかし、安倍首相をそれまでの日本流に育てようとしたことが完全に裏目に出てしまう。それまでの日本流とは、「エリートには無理をさせず大切に育てる」というものである。
日本の役所でも大企業でも、あるいは大メディアでもこうしてエリートを養成してきた。しかし、そうしたエリートは少し前の流行語で言えば草食系となり、何とも頼り甲斐がない。日本が変革期に没落しているのは、ここに原因の一端があるはずだ。
安倍元首相は支持者である財界人から次のように大切に育てられる。
「安倍さんはまだまだ若い。だから長期政権になってもらわなければ困る。そのためには揉め事はつくらないほうがいい。最初から敵をつくらないほうがいい。無難に出発しよう」
しかし、竹中さんはこれが失敗の始まりだったと言う。大きな失敗はしない代わりに大きな成果も生まれず、国民の支持を失っていく。そして敵を作らないことは、郵政改革反対派を復帰させることになり、さらに国民の支持を失っていく。
次ページ以下は竹中さんのインタビューをお届けする。日銀や世界の中央銀行についても聞いた。