TPPが日本に向かって、ひたひたと接近してきた。

 TPPは日本語では一般に「環太平洋戦略的経済連携協定」と訳されている。しかしTPPとはそもそも「Trans-Pacific Partnership」、つまり「環太平洋パートナーシップ」の頭文字を取った略である。「太平洋の周辺地域のパートナーシップ」というこの表現の方がTPPの本質を知るためには、ずっと分かりやすいだろう。

 このパートナーシップは太平洋に面した諸国の経済の連携であり、特に貿易面での相互の自由化を目指す。母体は従来の自由貿易協定だが、その「自由」を拡大し、関税や輸入割当をゼロにすることまでを目標とした「21世紀型の自由貿易圏構想」とも評される。

 このパートナーシップにはすでにオーストラリア、ブルネイ、チリ、マレーシア、ニュージーランド、ペルー、シンガポール、米国、ベトナムの9カ国が加盟を決めている。日本は加盟か不加盟かを決めるための協議に加わった、というわけだ。

日本から奪い絞り取るための策略?

 周知のように日本のTPP加盟をめぐっては国内では激しい議論が展開された。まだその帰趨は決まっていない。野田政権は事実上、加盟の方針を決めたと言えるが、加盟反対派の勢いもなお根強い。

 特にこの反対論には、TPPを米国の策謀や陰謀と見る向きが少なくない。米国が日本の市場だけでなく、産業や社会の構造までも変えて、従来の日本のシステムを解体し、米国経済の発展に役立たせようという対日大作戦がこのTPPだとする主張である。

 米国がTPPに関して日本に求めることとは、実際にはなんなのか。「陰謀論」が唱えるように、オバマ政権と米国の経済界が一体となって自国の繁栄を高めるために、このTPPによって日本から種々の収奪をしよう、というのか。

 「(米国は)大震災で得られた国民的合意『日本人同士は助け合おう』の精神を破壊し、米国のために日本人同士を競わせ、排除し合うように仕向ける」

 上記は日本のTPP反対論者が書いた本の宣伝文句の一端である。主要新聞各紙の巨大な広告に大々的に掲載された。

 「日本は、米国の仕掛けた罠に再びはまるのか?」

 「TPPの実態は日本の市場を米国に差し出すだけのもの」

 このような記述からは、米国の官民が敵意や悪意に立脚して日本を標的とし、日本からとにかく奪うためにこのTPPを押しつけようとしている──という構図が浮かび上がってくる。