日銀が新たに打ち出した成長基盤強化の支援策検討と、最近の「経済・物価情勢の展望」(展望レポート)については、すでに4月30日作成「日銀『展望レポート』、2011年度CPIコア+0.1%」で、筆者のコメントをお伝えした。ここでは白川方明日銀総裁の記者会見での発言内容などを踏まえ、追加でコメントしておきたい。

 2011年度に前年度比+0.1%という展望レポートのCPI(消費者物価指数)コア見通し数値では、政府・日銀がともに事実上目指している+1%ラインまで、距離がかなりある。今後も追加緩和が避けられない情勢の中で、日銀は「成長基盤強化の支援」という「奇手」を、今回繰り出したと言える。

 4月30日の金融政策決定会合で議長(白川総裁)から執行部に発せられた、「成長基盤の強化に資する新たな取り組み」の検討指示は、6月に出てくる予定の政府の「成長戦略」を、多分に意識したものとみられる。さらに、資金の循環の悪さに関する議論に鳩山由紀夫内閣の主要閣僚が最近傾斜していることも、日銀が未踏の領域に踏み込もうとする上での伏線になったのではないかと、筆者は考えている。日銀による金融市場への資金供給量の多寡が問題なのではなく、その一つ先のステップである民間金融機関から経済全体への資金の行き渡り(資金の巡り具合)が改善すべき部分だという認識を、閣僚が口にする場面が増えている。例えば、菅直人副総理・財務・経済財政相は4月9日の衆院財務金融委員会で、「お金の循環が悪い。物を買ったり投資をしたりするよりもお金を持っていたいという状況。成長分野にお金をどんどん投じていくことも考えていきたい」と発言。「第2のケインズ革命」を掲げた4月12日の講演では、日本経済の長期低迷やデフレ状況の克服には「お金を循環させることがポイントだ」とも述べていた。また、仙谷由人国家戦略相は3月19日に通信社インタビューで、「金を回すことをもう少し考えないといけない。地方の銀行などは事業に対するファイナンスが大変消極的すぎると感じている」とコメントしていた。

 こうした主要閣僚の意向に沿う形で、日銀がここで成長分野への資金供給に積極的に協力する姿勢を示すことは、4月22日に米国で行った講演でも白川日銀総裁があらためて拒否反応を示したインフレ目標導入論や、6月に政府から出てくる「中期財政フレーム」「財政運営戦略」とのタイアップで日銀が長期国債買い切りオペを増額すべきだという一部の主張をかわすことにもつながってくると考えられる。政府との協調姿勢をあからさまにアピールするかのような「成長」という言葉をあえて明示した今回の日銀の動きに、そうした思惑が一切ないとみるのは、むしろ不自然であろう。白川総裁は記者会見で、「政府からの要請があったわけではまったくない」と述べていたが、それは真実とみられる。日銀の側が率先して「新たな追加緩和ルートの掘削を開始し始めた」ものと、筆者は受け止めている。

 また、もう1つ考えられるのは、新型オペを活用した追加緩和の限界が見えてきているということである。このオペをさらに拡充するための2つのルート、すなわち、(1)量のさらなる上積み、(2)タームの長期化(6カ月物の導入)は、いずれも一長一短であり、しかも追加的な緩和効果は乏しいという慎重意見も政策委員の中にはあることから、新型オペのさらなる拡充で、政策委員会内でコンセンサスを得るのがかなり難しくなっているという事情があるのだろう。

 白川総裁は4月30日の記者会見で、20兆円規模まで積み増すことを3月に決めた3カ月0.1%固定金利の新型オペについて、「その効果と副作用をしっかり点検していく」「現時点では追加緩和が必要だとは考えていない」と述べていた。新型オペの効果として白川総裁が指摘したのは、やや長めの金利(ターム物金利)の低下と貸出金利への低下波及、日銀の姿勢明確化を通じた企業マインドの下振れ回避。一方、副作用として指摘したのは、短期金融市場の取引縮小と金融機関の資金調達面での安心感の低下、金融機関の利ざや縮小と資金仲介活動のインセンティブ低下である。