『がんばらない』『あきらめない』などの著作で知られる医師、鎌田實氏が最新作『空気は読まない』を上梓した。鎌田氏が今までに出会った「空気に負けずに、自ら空気を動かす人たち」の話が二十数篇綴られている。

 個々の登場人物の力強い生き方にはもちろん心を打たれるのだが、特に印象に残ったのは、鎌田氏が名誉院長を務める諏訪中央病院の「あたたかい空気」だった。

空気は読まない』(鎌田實著、集英社、952円、税別)

 諏訪中央病院は、長野県茅野市の中核病院である。「やさしく、あたたかい、たしかな医療」をモットーとし、地域に密着した医療活動を行っている。

 諏訪中央病院にある「緩和ケア病棟」は、鎌田氏の著作などを通して全国的に知られている。緩和ケア病棟とは、末期がんなどで生命の危機に瀕している患者の肉体的、精神的な苦痛を柔らげてあげる施設だ。

 諏訪中央病院の緩和ケア病棟に入院したい、ここで人生の最期を迎えたいという患者は、長野県だけにとどまらず日本全国に大勢いる。また、この病院には、全国から数多くの若い医師や研修医が引き寄せられるように見学、研修に訪れてくる。

 知名度があるとはいえ、「全国でここだけ」というような最先端治療を行っているわけではない。それなのに、なぜ諏訪中央病院はこれほど多くの人を引きつけるのだろうか。

 その秘密は、どうやら医療現場を流れるあたたかい空気にあるらしい。そのあたたかい空気の正体とは何か。諏訪中央病院ではどのような医療が行われているのだろうか。

あたたかさはどんどん連鎖していく

── 今回の本は「空気」がテーマですね。周りの空気を自ら変えていくことや、「あたたかい空気」の大切さを執筆されています。

鎌田氏(以下、敬称略) 書きながら思ったのは、モノやお金も大事だけど、僕たちが忘れている大事なものが他にあるということ。それは、心意気とか志(こころざし)なんですよね。

 もちろんお金は大事なんだけど、やっぱり空気を動かすのは人間のあたたかい心なんじゃないかなと。