「晴れた日に傘を貸し、雨になったら取り上げる」――。銀行を揶揄する、そんな言葉がある。事業が順調な時には無理強いしてまでも貸すくせに、業績が落ちて資金繰りが苦しくなると、手のひらを返すように貸し渋る、ひどいケースでは貸し剥がすという意味だ。
もちろん銀行側には私企業としての言い分がある。預金者から預かった金を、返す当てのない相手に貸すわけにはいかないし、焦げ付く前に回収を急がねばならないのは当然の話。だが、そんな理屈を言ってはいられない世の中になった。
鳩山政権は2009年12月、中小・零細企業や個人が抱える借入金の返済猶予を銀行に促す中小企業金融円滑化法を施行。金融庁が監督指針と検査マニュアルを抜本的に改定したこともあって、メガバンクから信用組合に至るまで、日本中の銀行は今、申し込みが殺到する返済猶予の実績づくりに躍起となっている。
「雨になったら傘を貸せ」と言えば、いかにも善政を施しているように聞こえる。確かに新法のおかげで資金繰りの危機を乗り越えた借り手は少なくないだろう。旗振り役の亀井静香金融担当相は、銀行側の対応ぶりに至極ご満悦の様子だ。
しかし、将来性のある貸出先には、法律ができる以前から返済期間の繰り延べや毎回返済額の減額といったリスケジュール(条件変更)は普通に行われてきた。そのハードルを形式的に下げたところで、経済を好転させるだけの根本的な対策がなければ単なる問題の先送りにすぎず、借り手のモラルハザードを助長しかねない。
企業の4割、リスケ申請した取引先への与信引き締め
金融円滑化法に対しては、借り手の企業側も複雑な反応を示している。それを如実に示すのが、帝国データバンクが2009年10月から3回にわたって実施し、毎回1万社前後から回答を得ている意識調査だ。
2010年2月17~28日に行った直近の調査結果によると、新法施行後に債務返済猶予を銀行に申請した企業はわずか2.4%。「検討中」も4.6%にとどまり、82.3%が「今後も検討の予定はない」と答えた。施行前の1回目の調査結果(「検討する」が11.1%、「検討しない」が65.3%)に比べると、申請に前向きな企業が減り、否定的な企業が増えている。