夕暮れ時のアリゾナ州ピマ郡。メキシコとの国境からおよそ18キロの場所でパトロール中だった米国国境警備隊のブライアン・テリー捜査官とその一行は、5人の不法入国者らしきメキシコ人を発見した。

 国境警備隊が威嚇射撃したことから銃撃戦になり、テリー捜査官が撃たれ死亡した。

 現場から発見された2丁の拳銃「AK-47」が、ATF(アルコール・タバコ・火器及び爆発物取り締まり局)のおとり捜査の一環として密売買されたものだと露見し、これがきっかけとなってATFが過去5年にわたって行ってきた危うい工作が明らかになった。

 「史上最悪の愚作」「誰がこんなバカげた計画を許可したのか」など、政府関係者からメディアに至るまで誰もが口を揃えて非難しているこの作戦。それは、一体どれほど「ムチャクチャ」なものだったのか。

銃を売買する現場を故意に見逃す

 その名も「銃の密売作戦」。2006年からATFのフィーニックス支部が開始した。

 米国映画やテレビシリーズでおなじみのATFは、その名の通り違法なアルコール、タバコ、火器および爆発物を取り締まる機関である。中でも、銃の違法な売買の取り締まりは、ATFの最も重要な任務の1つである。

 そのATFが「銃の密売作戦」のもと、銃の密売を許し、一部の銃販売店には、明らかに密売人と思われる人物にも売るように推奨していたのだ。

 当初のアイデアは悪くはなかった。

 米国の犯罪取り締まり機関の大きな目標の1つが、メキシコの麻薬カルテル撲滅である。麻薬関係の犯罪で、メキシコでも米国でも戦争並みの死傷者が出ている。麻薬関係の犯罪に使われる銃は、米国から密輸された物が大部分を占めている。ATFは日々、密輸目的で銃を買おうとする人物を摘発してきたが、いずれも単なる売買の代理人で、カルテルの中では小物であることが多い。何百人逮捕したところでカルテル撲滅にはほど遠い。