「民は愚かに保て」。それが、福島第一原子力発電所事故における国や地方自治体の姿勢のようだ。そこに一部のマスコミまでが引きずられている感じがある。
10月12日、東京都世田谷区内の住宅地で毎時3.35マイクロシーベルトという高い放射線量の地点が見つかり、世田谷区役所は立ち入り禁止の処置を取った。すぐに民家の床下から見つかった放射性ラジウムが原因と分かり、原発事故とは無関係ということが証明された。
続く10月17日には、足立区内の小学校で毎時3.99マイクロシーベルトの放射線量を示す地点が見つかったが、こちらは明らかに原発事故が原因とされた。建物の雨どいの下で、建物の放射性物質を含んだ雨水が集まったために放射線量が高くなったと考えられている。
そうであれば、足立区の小学校のような例は、まだまだあるはずである。しかし、他の事例が発見されたという話は聞こえてこないし、足立区の例では大騒ぎしたマスコミも、他での可能性については騒ぎ立てない。騒ぎが大きくならないように自粛しているのかもしれないが、普段のマスコミらしからぬ反応である。
ホットスポットの発見者は風評の発信源なのか
もう1つ、今回の東京都内で高い放射線の地点が見つかった問題で、行政もマスコミも「目立たせたくないのか?」と思いたくなる点がある。
それは、「誰が見つけたのか」ということである。ヒーロー好きのマスコミもこの点については実に淡泊な反応しかしていない。
世田谷区でも足立区でも、放射線量の高い地点を発見したのは行政ではない。発見したのは、いずれも住民である。原発事故での放射線被害に危機感を持った住民が、誰に言われたからでなく、自らの意思で、自らの負担で機器を購入し、調査した結果だったのだ。
そうした住民がいなければ、世田谷区でも足立区でも放射線量が高く危険な場所が放置されたままになっていたに違いない。
世田谷区の場合は原発事故由来のものではなかったが、原発事故がなくて自らの意思で行動する住民が現れていなければ、ずっと放置されたままになっていたかもしれない。それで健康被害があったとしても、原因は究明されないままになっていたことだろう。
自らの意思で行動し始めた人たちがいたからこそ、放射線被害の可能性を回避するきっかけになったことは事実である。そういう人たちは、大いに感謝されるべきはずだ。
しかし、そういう人たちへの讃辞は大きくならない。「住民からの通報で」と報じても、その部分をクローズアップする報道は少ない。「住民の独自測定が重要」といった論調は寡聞にして知らない。国や自治体からも、それを求めるコメントはまったくしない。
読売新聞(10月17日付)の「編集手帳」は、「国内では、放射性物質の影響に過剰反応して東北産品を排除するなど、様々な風評被害を起こしている」と述べている。原発事故で飛散した放射性物質の影響を懸念する人たちを批判している、としか読めない文章である。