2008年6月、天皇陛下と皇后陛下が秋田県・小坂町を訪れた。秋田県北秋田市で開催された「第59回 全国植樹祭」に出席するのと併せ、DOWAグループが小坂町で取り組んでいる環境リサイクル事業と緑化事業の見学を所望したのだという。

 DOWAグループは2005年より小坂町で、「小坂環境プロジェクト」と称する緑化事業に着手している。明治時代からの製錬事業で痛めつけられた鉱山跡に、アカシアを中心とした木を植えて、緑の山を蘇らせようというものだ。植えられた木はすでに300万本。2010年までプロジェクトを継続し、覆土、緑化を実施していく。

DOWAホールディングスの吉川会長には「環境リサイクル事業は絶対に大きくなる」と いう確信があった (写真:LiVE ONE)

 「約20億円をかけて行っています。一銭の金にもならないプロジェクトです。でも、DOWAとしては絶対にやっていかなければならない」(DOWAホールディングスの吉川廣和会長、以下同)

 吉川会長は、プロジェクトの意義を力説する。「失われた緑を復活させるのが最大の目的です。でも、ただそれだけではありません。今、DOWAは町と一体になって、小坂を循環型社会のモデルに育てようとしています。この土地で環境事業をやるからには、地元の人たちに安心してもらい、協力を得ることが欠かせません」

 「だからこの緑化事業を通して、DOWAはこれだけ環境のことに気を遣っている、地元のためにこれだけ尽くしているということを町の人たちに理解していただきたいんです。そうすれば、この町でDOWAを応援してくれる人がもっと増えるだろうし、子供たちが将来、DOWAを支えてくれるかもしれない」

 つまり、この取り組みは、「DOWAはこれからも小坂でずっと事業を展開していく」という意思表明なのだ。「鉱山が閉山したら、ほとんどの会社はそこからいなくなります。でも、我々は絶対にここから逃げません」

「都市鉱山」が日本を救う

2008年4月に稼働を始めた新型炉

 明治時代に、DOWAグループの前身である藤田組が、当時、官営だった小坂鉱山の払い下げを受けた。それ以来、100年以上にわたって同和鉱業、DOWAグループと名前を変えながらこの地で製錬事業を行ってきた。鉱石を採掘し、石から銅、亜鉛、金、銀、鉛などの非鉄金属を取り出すという事業である。

 事業に大きな転機が訪れたのは1985年。プラザ合意によって円高が急激に進むと、ドルベースで取り引きされていた非鉄金属は製品価格が急激に下落。その結果、国内の鉱山は採算が取れなくなり、次々に閉山に追い込まれる。小坂鉱山もその波にあらがえず、結局90年に閉山した。

 だが、DOWAグループは今も小坂にとどまっている。旧鉱山の設備と技術を活用した環境・リサイクル事業に取り組んでいるのだ。長年にわたって蓄積された製錬技術を生かして、産業廃棄物から銅、鉛、金、銀といった貴金属を取り出す。

リサイクル原料として持ち込まれた電子基盤

 「廃棄された家電や自動車、携帯電話、パソコンなどには、非鉄金属が大量に、そして高濃度で含まれています。例えば携帯電話を1トン集めると、その中に金が200~400グラムも含まれている。本当の鉱山だと、どんなに“優良”と言われる金山でも、1トンの中に50グラムぐらいしか含まれていません。通常の金山だと、せいぜい20~30グラムでしょう」。産業廃棄物が「都市鉱山」と呼ばれるのもうなずける。本物の鉱山よりも10倍の濃度で金や銅を含んでいるのである。

 「都市鉱山から金属を取り出すのは、日本の国家戦略としても非常に意義があることです。なにしろ日本には資源がない。おまけに今、金属の価格が高騰していますから、日本にとっては大きな痛手です。でも、日本には都市鉱山がある。そこから金属を回収すれば、効率的に資源の確保ができるというわけです」