サイクリングの素人が長距離の旅行、しかも世界一周という、とんでもない大業を成し遂げた。世界42カ国を8年かけて自転車で回ったのは、イタリア人とスイス人の夫婦、レプレ夫妻だ。日本にも1年以上滞在して、北海道から沖縄まで全国を旅した。

 世界一周の基本は野宿だったが、特に日本では多くの一般家庭から宿泊提供を受けて、草の根交流を経験した(本文敬称略)。

振り返れば「奇跡だった」8年の旅

「8年間・自転車世界一周」を成し遂げたLepre夫妻。妻のVerenaさんと夫のLuciano氏。(著者撮影)

 妻のヴェレナと夫のルチアノは、スイス西部の有名な古城シヨン城付近に住んでいる。

 2人は1996年から2004年まで、8年かけて自転車で世界一周した。スイスから中東、そしてアジアに入ってオーストラリアへ。その後、北米と南米を回ってヨーロッパに帰ってきた。

 旅行前、ヴェレナは医薬品関係のセールスをしていて、ルチアノは携帯電話などの家電品の販売に携わっていた。2人とも仕事に没頭し、年始から年末まで仕事の予定がぎっしりと詰まっている状況だった。

 40代にさしかかった頃、「もう十分働いた。仕事を辞めて何か面白いことを」と考えた。以前から会いたいと思っていたネパールに住む友人のところに、「自転車で行ってみてはどうか」とひらめいたという。

 特にルチアノは写真が趣味で、写真撮影に思う存分時間を取ってみたかったこともあった。

旅をスタートしたばかりの1996年当時。テントや寝袋、コンロ(調理具)などを積んで。(写真提供以下すべてVerena and Luciano Lepre)

 当時2人はサイクリングの素人だった。自転車を所有してもいなければ、レンタルして普段乗ることさえなかった。

 それが、いきなり自転車旅行とは無謀に見受けられるが、すでに、いろいろな国を普通の観光旅行で訪れていた2人にとって、また同じスタイルでというのは退屈に感じたのだ。

 移動手段が自転車なだけで宿や食事は通常通りという旅ではなく、バックパッキングでと決めた。

 ネパールを目指した旅行が始まり、ヴェレナは背中に、ルチアノは膝に痛みが出たが、旅するうちに、ハンドルとサドルの高さを微調整するなど楽に走れる工夫を見つけていった。1日の平均走行は4~6時間だった。