2011年7月、放射性物質に汚染された「稲わら」を牛が食べたことが原因で、基準値以上の放射性セシウムを含む牛肉が全国に流通した。それから2カ月、汚染が疑われる牛の全国調査もほぼ終わり、結果が公表された。

 事態は収束するかに見えたが、9月30日に宮城県栗原市の農家から出荷された牛肉から基準値を超える放射性セシウムが検出された。この牛肉は廃棄され流通していないが、消費者の懸念はぬぐえないままだ。

 各自治体では「全頭検査」を行う動きが広がりつつある。放射線セシウムの全頭検査とは何か。過去に行われたBSE全頭検査との違いを通じて、全頭検査の意義について考えてみたい。

放射線セシウム汚染牛騒動の発端

 まず、事の経緯を振り返ってみよう。

 7月、福島県南相馬市の11頭の牛から暫定基準値である1キログラム当たり500ベクレルを上回る放射性セシウムが検出された。1頭からは基準値を大幅に上回る1キロ当たり2300ベクレルが検出された。

 この11頭の肉牛は出荷されなかったが、同じ農家から6頭がすでに出荷されていた。その肉牛はすでに11都道府県(東京、神奈川、愛知、北海道、徳島、高知、静岡、千葉、大阪、兵庫、秋田)に流通していた。店頭でも販売され消費された可能性があり、放射性セシウム汚染牛の懸念が広がった。

 事の発端は、放射性セシウムに汚染された稲わらを牛に与えていたことだ。国と県で現地調査をしたところ、同農家は4月初旬に水田にあった稲わらを集め、牛に与えていた。この稲わらからは1キロ当たり7万5000ベクレルという高い放射性物質が検出された。その後、汚染された稲わらが福島県の他の農家や、他県の農家にも飼料として与えられていたことが分かり、波紋が広がった。

汚染された牛肉は全国的に流通した

 農林水産省は、稲わらの利用と汚染牛の流通先について全国調査を実施した。7月28日時点で「稲わら等の利用に関する全国調査について」という中間報告を発表している。

 調査対象は、過去に野菜などから暫定基準値を超える放射性物質を検出したことがある東北・関東11都県(岩手、宮城、福島、茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、東京、神奈川、静岡)。2万2800戸の農家のうち783戸(約3%)の農家が原発事故後に集められた稲わらを与えていた。このうち8県の120戸で、基準値を上回る稲わらが与えられていた。