南半球が夏に入り、日本の調査捕鯨が始まると同時に、国際反捕鯨組織「シー・シェパード」の妨害行為も活発になっている。来日したオーストラリアのケビン・ラッド首相は、鳩山由紀夫首相との会談で、日本の調査捕鯨を国際法の手続きに訴える可能性を示唆したが、鳩山首相は合法的活動だと理解を求めた。

世界の外交史上異彩を放つ調査捕鯨

シー・シェパード、日本の調査捕鯨に「未来型抗議船」で対抗

シー・シェパードが豊富な寄付金を元に製造した最新鋭の捕鯨妨害船〔AFPBB News

 捕鯨問題は、地球温暖化と同様、自然科学の研究成果が外交の基本枠組みを描くという点で、共通の特徴を持っている。と同時に、現代の外交は激しい対立をはらんでいても洗練された交渉スタイルを確立させている。

 この点で捕鯨問題は、時には感情的対立をむき出しにする場であるため異彩を放っている。私は、自然科学と外交交渉が互いにどう影響し合うのかを研究テーマとしており、捕鯨問題についてもIWC(国際捕鯨委員会)のオブザーバー資格を持つNGO(非政府組織)の一員として、会議をウオッチしてきている。

 そこで見えてきたのは、日本国内での議論は、農林水産省とその外郭団体である「日本鯨類研究所(鯨研)」が提供する情報だけでなされている、と言ってよい事実である。

 日本は、1988年に商業捕鯨のモラトリアムに対する異議申し立て権を放棄したのを境に、調査捕鯨を開始した。調査捕鯨は、IWC条約第8条が加盟国の裁量で科学調査を認めているのが根拠だが、日本はこれまでに調査の名目で、南極海だけで9000頭のミンククジラを捕獲している。

「科学の名を騙る商業捕鯨」との非難

 現在の大型野生動物の調査方法は、発信器を付けて行動を追尾するのが普通であり、後は偶然死体が見つかるか有害駆除された死体を研究するのが一般的で、研究目的での殺害は禁じ手である。この意味で、毎年400~500頭もの鯨を研究目的で殺害する日本の調査捕鯨は、全く異質の存在である。

 このような形態を取っている理由は、開始当時の大蔵省が、捕獲した鯨肉を売って船団経費を賄う仕組みであれば認めると指示したからである。つまり日本の調査捕鯨は、当初から目的と手段が逆転しており、諸外国からは「科学の名を騙る商業捕鯨」と非難され続けている。