「君たち一人ひとりに、何かしら特技が備わっているのです。君たち一人ひとりに、何かしら人の役に立てる力が与えられているのです。そして君たち一人ひとりに、それは具体的に何であるかを見つける責任があるのです。それを見つける手助けをしてくれるのが、教育なのです」
学校の新学期が始まる9月8日、オバマ大統領は全国の小中高生にテレビ生中継で語りかけた。15分弱の短いスピーチだったが、生徒たちに勉強に励み、学校に最後まで通い卒業する大切さを繰り返し訴えた。生徒それぞれのたゆまぬ努力が、本人の人生にとって大切なだけでなく、国の未来を左右するのだと、諭すように話しかけた(スピーチ全文の日本語訳はこちら)。
大統領のスピーチを聞かせないために学校を休ませる親
多くの生徒たちが、この放送を学校の教室で見た。しかし、見ることができない子供たちも大勢いた。「学校で政治的なスピーチを放送するのはいかがなものか」と反発した保護者が、子供たちに学校を休ませたり、放送の間だけ別の教室で待機させることを要望したりする行動が全国的に起こったからだ。
放送当日までの数週間、学校や州の教育委員会に、ヒステリックになった親たちから、「生徒たちに民主党員になるように呼びかけると聞いた」「オバマ大統領が社会主義思想で子供たちを洗脳すると聞いた」などの電話が殺到。
テレビのニュースでも、「子供たちに大統領の演説を無理強いして聞かせるのは、独裁者的な行動だ」として、その日は子供を休ませると宣言する親が次から次へと紹介された。
予想外の猛反発に驚いたホワイトハウスは、大統領のスピーチには政治的なメッセージは含まれておらず、見るか否かは各学校の判断に委ねていると再三説明したが、理不尽な誹謗中傷はどんどんエスカレートした。
結果的に、学校によっては放送を取り止める、親の許可がない生徒は別室で特別授業を受ける、各先生の判断に任せる、など足並みの揃わない対応となった。
この理性を欠いた大人の行動を、米国の子供たちはどう眺めていたのだろうか。大統領が、自分たちに向けて特別なメッセージを送ってくるという一大イベントは、「子供にとって何がいいかは親が判断する」という大人の姿勢によって台無しにされてしまった。
超過保護の「ヘリコプターペアレント」
子供に大統領のメッセージを聞かせないこうした極端な行動は、過保護の表れと言えるだろう。
日本のモンスターペアレントとは性質が異なるが、米国でも「ヘリコプターペアレント」と呼ばれる過保護な親たちがここ数年メディアを賑わしている。
主に大学生か社会人になったばかりの子供から子離れができず、低空飛行するヘリコプターのように子供たちの頭上を旋回する様子になぞらえて、この言葉が生まれたという。