原子力発電の燃料代は安い。一方、火力発電の燃料代は高い。ゆえに原発を止めてその分の電力を火力発電により補おうとすると、新たに3兆円以上のお金が必要になる。これは6月7日に経済産業省の試算として海江田万里経産大臣が発表したものである。
それが大手マスコミによって広く伝えられたために、脱原発は高くつくというイメージが国民に定着した。経産省は、多くの国民が、そんなにお金がかかるのなら今後も原発を動かすべきだと考えるようになることを狙ったと思われるが、それは思わぬ方向へ世論を誘導してしまった。
火力発電のための燃料を輸入すると、多額のお金が海外に流出してしまう。しかし、そのお金を再生可能エネルギー開発のために国内に投資すれば国益になる。少々高価であろうと、再生可能エネルギーの推進は国益になる、との理屈につながったのである。
原発を止めた時の費用を高く見積もったことが、再生可能エネルギーを推進すべしとの意見に勢いをつけさせる結果になっている。
だが、原発を止めると、本当に3兆円も余計に必要になるのだろうか。
マスコミは大臣や官庁が発表する数字を鵜呑みにして、ただ垂れ流すだけではなく、その数字の根拠を問いただし、場合によっては自らが考える数字との比較を伝えるべきだろう。しかし、日本ではこの辺の作業が全くなおざりになっている。
ここでは、原発を止めた時の燃料代について考えてみたい。それには、石油を中心とした燃料価格の歴史を復習する必要がある。
かつて1バレル3ドルだった石油価格、高騰の原因は?
石油ショックが起こるまで石油は大変に安く、1バレルが3ドル程度(=原油価格、以下「石油価格」と表記)に過ぎなかった。日本はこの安い石油を利用して高度経済成長を成し遂げている。
しかしそのような状況は、1973年の第4次中東戦争に伴う石油危機によって一変してしまう。石油価格は74年に10ドルになり、その後79年のイラン革命に伴う第2次石油危機により40ドルにもなった。10年間で10倍以上になったのだ。