その工場では、十数人の作業者が1つのラインに沿ってチョークづくりに励んでいた。ラインに立つ作業者たちは全員、知的障害者である。

 ここは日本理化学工業の川崎工場。訪れる前は、おぼつかない手でゆっくりゆっくり作業しているのだろうと思っていた。しかし、実際に作業をしている姿を見たら、まったくの思い違いであることが分かった。

日本理化学工業・川崎工場のチョーク製造ラインの様子

 棒状に押し出された練り物状の細長いチョークをカットし、板の上に並べる人、乾燥機から出てきたチョークをコーティング工程に送るために、12本ずつひとまとめにしてクリップに挟む人・・・。

 一つひとつは単純な作業なのだが、動きに無駄がなく、素早い。みんなてきぱきしている。そして何よりも、誰もが自信にあふれた表情で、堂々と作業している。「知的障害者が働く工場」に対する私の誤ったイメージは、実際の作業場を見てものの見事に粉砕されたのだった。

 意外な発見はそれだけではなかった。大山泰弘会長にインタビューして、実際にチョークをつくっている様子を見学させてもらっているうちに、どうもここは「工場」という枠には収まらない別の場所だということに気づき始めた。

 工場というよりも、本当は「学校」なのではないか。もしかしたら知的障害者は私たちの「先生」なのではないかと思えてきたのだ。

養護学校の先生が連れてきた2人の少女

 日本理化学工業は創業して約70年になるチョークメーカーである。書籍やビジネス誌、テレビなど数多くのメディアで紹介されている会社なので、名前を知っている人は多いだろう。

 同社の最大の特色は、障害者雇用の取り組みにある。同社には川崎工場、美唄工場(北海道美唄市)という2つの工場があるが、製造ラインで働いているのはほぼ全員が知的障害者だ。74人の全従業員のうち、55人が知的障害者である。その比率はなんと74%に達する。おまけに半数は重度の障害者だ。

 知的障害者がそれだけたくさん働いていたら、企業として大きなハンディなのではないかと思うだろう。しかし、同社にそんな社会通念は当てはまらない。