消費者が支出を行う場合に必要な要素には、どのようなものがあるだろうか。

 まず、心理的要素。多少の迷いの有無はともかく、「買おう」という決断がなされることが、最低限必要である。

 次に、物理的要素。必要なのは、次の3つだろう。(1)「買う対象であるモノやサービス」、(2)「支払われる対価」(通常は金銭。最近ではそれに準じる各種ポイントのケースも)。そして、見落とされがちだが重要な要素として、(3)「時間」がある。消費者が何かを買おうとしても、購買行動に充てることのできる時間がなければ、どうにもならない。

 筆者は1つの問題意識を持っている。それは、人口減少とともに高齢化が急速に進んでいく日本では、消費の現場は今後、大きく変貌していかざるを得ないのではないか、ということである。国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来人口推計」(2006年12月)によると、今から約40年後、2055年には、0~14歳の年少人口は752万人弱で、現在の半分未満になる。一方、65歳以上の老年人口は3646万人強に増加する見込みで、人口全体に占める割合は、現在の22%程度から、2055年には40%程度に急上昇することになる。そうした見通しを踏まえつつ、上記の(1)~(3)に沿って、消費の「未来図」について、思考を少し巡らせてみよう。

 まず、(1)「買う対象であるモノやサービス」は、どう変わっていくだろうか。人口構成の変化を反映する形で、現在とは異なるところへと、重心が徐々にシフトしていかざるを得ない。

 ショッピングセンターや百貨店の店舗・商品構成を例に取って考えてみよう。化粧品売り場の主役は、中高年向けの商品になるだろう。衣料品売り場では、子供服は隅に追いやられることになる。書籍・雑誌売り場では、高齢者にやさしい大きな活字のものが平積みされやすい。すでに新聞各紙は競うように「大きな活字」を導入している(筆者は高齢化の着実な進行を実感するとともに、伝えられる情報量の減少を危惧してしまう)。ニーズの高まりを反映して、整体やマッサージの有名店がいくつか出店して、1つのエリアを形成するようになるのではないか。

 高齢の顧客が出入りする容易さを考えると、高層階ではなく、地下1階などがそうした場所の有力候補だろう。車椅子の高齢者に対応したエレベーターやスロープ、トイレなど、バリアフリー設備の整備は、一段と進むことになる。また、エスカレーターの動くスピードは、現在よりも遅くなる可能性が高い。外国で、空港にある動く歩道や、駅のエスカレーターに乗ってみると、動くスピードが日本のものに比べてかなり速いことに気付く。ぼんやりしていると終点で転んで大怪我をしかねない。安全性と効率性のバランスについての考え方の違いのほか、高齢化の進展度合いの差が素直に反映されている面もあろう。

 次に、(2)「支払われる対価」はどうか。

 支払い手段は、好みや資金繰りの都合に応じて、現金や電子マネー、クレジットカードなど、人それぞれだろう。

 しかし、問題になってくるのは、手段ではなく、対価の大きさである。高い確率で言えるのは、消費税率は将来、かなり高い水準まで引き上げられるのではないか、ということである。6月9日に首相官邸で開催された第16回経済財政諮問会議。経済財政改革の基本方針2009(「骨太の方針2009」)の素案が議論されたこの会議の場に参考資料として提出されたのが、内閣府による「経済財政の中長期試算」であった。