1.はじめに

 平成23年3月11日14時46分、三陸沖を震源とするマグニチュード9.0の大地震が発生し、東日本はかつてない未曾有の大被害を被った。死者・行方不明者は約2万7000人以上と見られている。

 このあまりにも甚大な被害は、(1)予想外の大地震、(2)想定外の大津波、及び(3)予想さえしなかった福島第一原発の事故に起因している。

 特に、福島第一原発の事故は、大規模地震と予想外の巨大津波による発電所内各装置の損傷や電源装置等の破壊で、冷却システムが機能せず、チェルノブイリ原発事故に次ぐ原発史上2番目の例を見ない大惨事を引き起こした。

 現在も最も重要な燃料棒や使用済み燃料の冷却や放射性物質の封じ込めに失敗しその修復に奔走している。

 このたびの大震災の原因やその対応については、現在のところいまだ総括する段階ではないが、現時点でも、これらの大震災への備えの欠如等、多くの教訓を学ぶことができる。特に、原発事故への初動対応の遅れは、原発は絶対安全であるとする神話にも近い関係者たちの危機管理の欠如が招いた人災の一面も持っている。

 大震災や巨大津波への備え等、このたびの震災はすべて想定外であったとの言い訳で決して許されるものではない。事故や災害は、常に想定外の規模のものが多く存在することを歴史は教えている。

 「最悪の事態(あるいはシビアな事態)に備える」という危機管理の本質を、今度の教訓から学び、謙虚になってその対応の在り方を見直す必要がある。

 一方、最近、世界的には軍事的な核兵器のもたらす災害の他に、非通常型の核に関する災害の生起の可能性とその対処の重要性が真剣に提起され、主要国ではその対策と対応が検討されている。

 これまでの核に関する脅威や災害を大別すると(1)通常型の核兵器(戦略核や戦術核兵器等)からもたらされる脅威や災害と、(2)最近米国等で懸念されている非通常型の核脅威や災害がある。

 (1)の通常型の核兵器については、NPT(核拡散防止条約)体制で言う、1967年1月1日以前の核保有国、すなわち、米国、ソ連(現ロシア)、英国、フランス及び中国の核兵器保有国の質的近代化等によってもたらされるものと近年の核兵器保有国、すなわち、インド、パキスタン、イスラエル及び北朝鮮の核兵器保有による質的・量的近代化による脅威があり、さらにはイランやミャンマー、シリア等の核兵器開発志向国からもたらされる脅威も懸念されている。

 特に北朝鮮の核兵器保有と核開発は我が国にとっては大きな脅威であり、深刻な核災害をもたらす可能性を持っている。

 これに対し、(2)の非通常型の核に関する脅威や災害は、テロや犯罪組織が不法な手段で核兵器を入手したり、自前で核爆発装置を製造したり、あるいは放射性物質を利用して放射能(線)爆弾、いわゆるダーティ爆弾(Dirty Bomb=汚い爆弾)を製造したり、原子力発電所を破壊する等の手段を利用することによりもたらされるものである。

 この中には、性質は多少異なるが、原子力発電所をはじめとする核施設の事故や今回の福島第一原発事故のような核災害も含まれている。

 このように通常の軍事的な核兵器とは異なる核兵器や放射性物質あるいは原子炉等の攻撃・破壊あるいは事故・災害などによりもたらされる核に関する脅威あるいは災害はこれから最も懸念される人類にとって死活的に重要な災害になる可能性を持っている。

 最近、米国等では、盗まれた核兵器や放射能兵器(放射性廃棄物や病院等で利用される放射性物質の利用を含む)等の脅威や災害を対象とした非通常型の核災害の可能性を懸念し、その防護と対策を真剣に検討している。

 この中には核兵器に関するアクシデントや原子力発電所の事故等による災害も含まれている。このたび、日本で生起した大規模地震・大津波に起因した福島第一原子力発電所の事故は、まさに米国等で懸念されている非通常型の核脅威の典型的な事例となったと言える。

 さらに、これらの事故から明らかにされた原子力発電所の持つ対テロ等への脆弱性の懸念である。すなわち、原子力発電所へのテロ攻撃等はその周辺施設、例えば、冷却システム等への破壊攻撃や送電線や電源施設の破壊等で簡単に原子炉熔融へと導くことが容易であることを立証したと言える。

 本小論では、非通常型の核脅威と最近の核テロ対策の動向及び原子力発電所等へのテロ攻撃の際の脆弱性等を含めその可能性等を概説してみたい。