スウェーデンのボロース(Boras)

社会福祉大国スウェーデン。税金と社会保険料負担が国内総生産(GDP)の50%という巨大な公共部門を抱え、年金や児童手当、傷病手当などの現金給付を国の事業(社会保険)として行い、全ての国民に平等で良質の生活を保障する社会を実現した。しかし2008年以降の世界経済危機は、スウェーデン・モデルの根幹を揺るがし始めている。福祉大国の「素顔」を現地から報告する。

 スウェーデンの教育は、私立も含めて小学校から大学院まで無料である。昨年、長男が小学校に入学したところ、教科書や教材はもちろん給食まで無償だし、個人が使うノートさえ支給された。コミューン(自治体)によっては、通学定期ももらえるという。

大学や大学院は全て無料(スウェーデン・ボロース大学、筆者撮影)

 「学校で使う鉛筆や消しゴムを買わなくていいのか」「長男はなぜ手ぶらで通学しているのかなあ」

 と不思議に思っていたら、学用品は全て学校側が用意していた。1クラスは十数人程度で、教室には楕円形の大きな机。その真ん中にある鉛筆や消しゴムを皆で共有し、自由に使っている。遠足など課外活動の費用も無料。ある学校が旅行のバス代を父兄から徴収しようとしたら、「違法行為だ」と問題になったこともあった。

 1996年、筆者はヨーテボリ大学の日本語教師アシスタントとしてスウェーデンに赴任した。その後、市民権を得てスウェーデン人と結婚したが、国籍は日本のままである。それでも、スウェーデン語教室、大学、大学院修士課程まで学費は全て無料。しかも政府から奨学金をもらい、学生ローンを借りて生活してきた。

 書籍も全て図書館が購入するため、個人ではほとんど買わずに済ませた。大学のコンピューターも自由に使え、プリントアウトも全て無料。ベクショー大学に留学した日本人の友人は、大学から住宅手当までもらっていたと言う。手厚い奨学金制度が整い、海外留学でさえ奨学金が支給される。親の所得や当人の財産などには全く関係なく、誰でも(外国人でさえ!)タダで大学や大学院で学ぶことができるのだ。

教科書はボロボロ、バス旅行中止の自治体も

 とはいえ、1990年代以降の欧州の財政難や今日の経済危機は、スウェーデン経済にも暗い影を落としている。国民一人ひとりの生活にも、目に見える影響が出始めた。

 依然として教育は無償だが、レンタル扱いの教科書は何年にもわたって引き継がれる。先輩たちが使ってきたテキストは、手垢にまみれてボロボロ。テープで修理しながら使っているのが実情だ。小さい自治体はバスで行く修学旅行を取り止め、徒歩旅行に切り替えた。

 外国人の親を持つ子どもは、家庭内で使う言語がスウェーデン語ではない場合、週1回ぐらい親の母国語で教育を受けられる。そのおかげでアラビア語や中国語を学べるのだ。

 しかし、日本語をはじめマイナーな言語は希望者が少ないため、予算が付かずコースを開講してもらえない。長男と同じクラスの中国人の子どもは既に漢字をたくさん書けるが、うちの子はやっと平仮名が読めるくらいだ。