米オバマ政権は金融危機の再来を防ぐため、規制・監督の強化策を矢継ぎ早に打ち出している。100年に1度の経済危機という最悪の環境で就任した大統領だが、前ブッシュ政権時代の「負の遺産」に果敢に立ち向かう姿こそ、オバマ人気の源泉でもある。しかし、ブッシュ共和党政権だけが金融危機の「犯人」ではない。ビル・クリントン政権時代、デリバティブ(金融派生商品)を野放しにする法律の制定を推進した人物も、世界を金融恐慌の瀬戸際まで追い込んだ「A級戦犯」だ。

棚ざらしにされた人事

 5月20日、上院本会議でホワイトハウスの頭痛の種だった商品先物取引委員会(CFTC)の委員長人事が決着した。オバマ氏が大統領就任前の昨年12月18日に指名したゲンスラー元財務次官が、88対6の賛成多数で承認されたのだ。議会が指名から半年以上も「待った」を掛けたのは、ゲンスラー氏が金融危機の遠因を作った1人ではないかとの声が上がったためだ。

 CFTCは、商品や株価指数の先物やオプション市場を規制・監督する独立機関だ。現物の株式取引を扱う証券取引委員会(SEC)と共に、相場操縦など不正行為に目を光らせる。金融再生を重要課題に掲げるオバマ政権にとって、CFTC委員長は重要ポストの1つだ。

 ゲンスラー氏は米金融大手のゴールドマン・サックスに18年間勤務。その後、クリントン政権下の1997年に財務次官補(金融市場担当)、1999年に財務次官(国内金融担当)を務めた経験を持つ。待ったなしの金融危機の中、オバマ大統領は即戦力になるゲンスラー氏が適任と判断した。

 議会が問題にしたのは、ゲンスラー氏が財務次官当時に関与した2000年の商品先物近代化法だった。デリバティブには、当局の監督下にある取引所を通じて決済するものと、売り方と買い方が相対で決済するものの2種類がある。後者は、店頭(OTC)デリバティブと呼ばれ、悪名高きクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)もこれに含まれる。CDSは、企業の倒産や債務不履行に伴う損失を補償する一種の保険契約である。

規制を嫌ったクリントノミクス

 1998年のヘッジファンド「ロング・ターム・キャピタル・マネジメント」(LTCM)危機を受け、当時のボーンCFTC委員長(当時)は「金融システム安定を脅かす店頭デリバティブを規制すべきだ」と主張した。

ルービン氏、シティの上級顧問を辞任 取締役も次期総会まで

クリントン政権時代の経済の司令塔・ルービン氏〔AFPBB News

 これに徹底的に反対したのが、ルービン財務長官(当時)とサマーズ財務副長官(同)だった。「規制は金融の技術革新を阻害し、店頭デリバティブ取引が海外に逃避する」というのが理由だった。1999年5月、下院農業委員会で証言したゲンスラー財務次官は「巨大で活力のある市場は米国の成功に不可欠な要素である」と、ルービン氏やサマーズ氏の主張に沿って証言した。

 時は1990年代後半、ITバブルはまだはじけておらず、米国経済とウォール街は絶好調だった。クリントン政権の経済政策はクリントノミクス、あるいは国家経済会議(NEC)委員長と財務長官を歴任したルービン氏が司令塔を務めたことからルービノミクスとも呼ばれ、評価が高かった。