菅直人内閣に対する不信任決議案の「茶番」をテレビで見ながら、この原稿を書いている。政治の「一寸先は闇」とはよく言ったものだが、日本政治の混乱を横目で見つつ、筆者はふと中国の若き政治家、胡春華・内モンゴル自治区党書記のことを考えていた。

 現在、内蒙古ではちょっとした騒動が起きている。ことの始まりは5月11日に内モンゴルで起きた蒙古族牧民の「轢死事件」だ。漢族石炭開発業者による牧場破壊に反対していたメルゲンという男性が漢族ドライバーの運転するトラックに轢き殺された事件である。

 胡春華書記は中国共産党指導者第6世代の出世頭の1人だ。彼の「領地」内で起きた混乱をうまく解決できるか否かは、胡春華という政治家の将来を左右するだろう。今回はこのような観点から内モンゴルで起きている抗議活動について考えてみたい。

モンゴル人を見下す漢族

内モンゴル自治区、デモ拡大恐れ警戒強化

当局が警戒を強化している中国・内モンゴル自治区のシリンゴル地区の中心都市シリンホト〔AFPBB News

 今回の騒動につき中国の国営メディアは事実関係をほとんど報じていない。情報が限られる中、「南モンゴル人権情報センター」(SMHRIC、Southern Mongolian Human Rights Information Center)が外国メディアの重要な情報源となっている。

 電話番号から見て本部は米国にあるのだろうが、このサイトには英語はもちろん、モンゴル語、中国語、日本語版まである。この言語的多様性こそが、逆に「大モンゴル主義」の限界を示しているようにも思えるのだが、この点は後で触れよう。

 SMHRIC情報や内外報道から浮かび上がってくる事実関係は概ね次の通りだ。様々なメディアが多言語で報じているせいか、一部の固有名詞について情報が混乱している点はご容赦願いたい。

●5月10日、中国内モンゴル自治区のシリンゴル(錫林郭勒)盟・西ウジュムチン(西烏珠穆沁)旗で、漢族の炭鉱開発による牧場破壊に反対する約40人の蒙古族牧民と約100人の漢族業者との間で争いが起きた。

●翌11日未明、この抗争の蒙古族側リーダーの一人であったメルゲン(莫日根)が漢族石炭運搬業者の運転するトラックの下敷きとなって150メートルほど引き摺られ、他のトラックの隊列により繰り返し押しつぶされ、轢き殺された。(現場写真はこちら

●これら漢族運転手たちは極めて粗暴、傲慢であり、「自分たちのトラックには保険が掛けてあり、臭いモンゴル牧民の命なんて4万元(約50万円、実際の発言は「40万元」だったとする説もある)にしかならない」と言い放ったとされ、蒙古族を憤慨させた。

●5月23日、事件の原因究明と蒙古族の人権尊重を求めるデモが始まり、24日には西ウジュムチン旗で住民約1000人の抗議行動が、翌25日にはシリンホトの市庁舎前で蒙古族学生約2000人による抗議行動がそれぞれ発生した。

●27日には、事件が起きたシリンゴル盟で牧民、高校生など数百人のデモ隊と300人以上の武装警察が衝突し、40人以上が連行された。

●31日、区都フフホトで蒙古族の権利擁護を訴える数百人規模の街頭デモが発生。その後も抗議行動を訴える呼び掛けが出回っており、現在も混乱が続いている模様。