小宮一慶さんは、この本が43冊目の著作。数を多く出版すればいいというわけではないし、ベストセラーが必ずしも良本とは限らない。しかし、小宮さんが上梓してきた本の多くにはビジネスパーソンが成長するために必要なヒントが詰まっている。

 この4月に刊行した『あたりまえのことを、バカになって、ちゃんとやる』(サンマーク出版)もそんな本だ。小宮さんが自ら考えたオリジナルはそんなに多くない。例えば、小宮さん自身が創業以来続けている、「毎朝、便所掃除をする」というのは、名経営者と呼ばれた人が何人も過去に実践してきた。

出会った人に多くの教訓を教わった

 しかし、忘れやすいことも人間に与えられた性である。時が流れると過去の素晴らしい教訓すらいつの間にか思い出せなくなっている。小宮さんはこの本で、自らの会社経営における山あり谷ありの経験によって、そうした過去の教訓を再び鮮烈に蘇らせてくれる。

 また、曹洞宗の藤本幸邦老師や岡本アソシエイツの岡本行夫氏、日本福祉サービス(現セントケア・ホールディング)の村上美晴社長ら、小宮さんが出会った人たちから受けた貴重な教えを咀嚼して披露してくれる。加えて、自身の肺がん手術の経験にも私たちビジネスパーソンが社会生活を送るうえで貴重な示唆に富んでいる。

 どうしたら豊かな人生を送れるのか。小宮さんはこう結論づける。(1)「何が起きても、前向きにとらえる」、(2)「人間として、正しい考え方を持つ」、(3)「仕事を深めるための勉強をする」。

 人生を面白くできるかどうかは、この3つのことをバカになってちゃんとやれるかどうかだというのである。

聞き流していたことが後で心に響いてくる

 「ABC=あたりまえのことを、バカになって、ちゃんとやる」は、ある経営者の方に教わった言葉だそうですね。

小宮 10年くらい前でしょうか、「ABCを大切にするといいことがありますよ」と最初に聞いた時は、「なるほど、おもしろいことをいうなあ」と思ったくらいでした。しかし、その後人生経験を重ねていく中で、この言葉の持つ奥深さが胸にずっしりと響き、深い感動となって全身にしみるようになりました。

小宮一慶(こみやかずよし)氏
経営コンサルタント。小宮コンサルタンツ社長。1957年、大阪府生まれ。京都大学法学部卒業後、東京銀行(現・三菱東京UFJ銀行)入行、在職中に米ダートマス大学エイモスタック経営大学院でMBA取得。91年岡本アソシエイツに移籍、93年カンボジアの国連平和維持活動に国際選挙監視員として参加。94年日本福祉サービス(現セントケア・ホールディング)に移籍。96年に独立。

 掃除をする、コピーを取る、電話を取る、挨拶をする、毎朝きちっと出社する。そういった当たり前のことを、いい加減な気持ちで型どおりにこなすのか、それとも心をこめて、バカになって、とことんていねいにやるのか。

 雑事もていねいにやると、それは雑事ではなくなります。小さなことでもバカになってちゃんとやる姿勢で生きていると、見えてくる世界や生きていく舞台が全く変わってくる。

 私は、1996年の会社創業以来13年間、毎朝のトイレ掃除を日課にしています。独立前に勤めた日本福祉サービスでは掃除を社員がしていて、すごく新鮮に感じ、その習慣を自分の会社に取り入れました。

 銀行に勤めていた頃は、掃除はクリーンスタッフがするものと思いこんでいましたが、現代は、世の中のほとんどの人がホワイトカラーになり、雑用を忌避して手を動かさない。そんな人たちが、頭と口先だけで仕事ができると錯覚しているところに、いちばんの問題があると思います。