写真提供:Blondet Eliot/ABACA/共同通信イメージズ

 かつてないほど人材採用が難しくなり、採用活動そのものは成功しても、「いい人材を確保できない」と悩む経営者は少なくない。今や日本を代表する企業となった楽天も、創業期には人材不足に悩まされた。その課題を解決するため創業者・三木谷浩史氏が編み出したのが、従来の「仮説→実行→検証」に「仕組み化」を加えた楽天式「PDCA-S」である。

 楽天で店舗系システム開発部長として、急成長を支えた著者が執筆した『楽天で学んだ 会社を急成長させるPDCA-S』(福永博臣著/日本能率協会マネジメントセンター)から一部を抜粋・再編集。業務連絡だけで終わらせない、会社の方向性共有から学びの促進までを一体化した楽天の“場づくり”について紹介する。

トップのビジョンが組織を動かす
全社員が同じ方向を向く「経営者のことば」

楽天で学んだ 会社を急成長させるPDCA-S』(日本能率協会マネジメントセンター)

■ 経営者の「今」を伝える

 楽天では、毎週月曜の朝に「朝会」と呼ばれる全社ミーティングが開催されています。創業当初から続く全社会議で、三木谷さんが自ら登壇し、現在の経営課題や自身が抱いている問題意識、注目しているトレンドや考えを社員に向けて語ります。

 一見すると、ただのスピーチのように思えるかもしれません。しかし、この「トップが何を考えているのかをリアルタイムで共有する」という行為には、非常に大きな意味があります。社員にとっては、「会社は今どこに向かおうとしているのか」「自分たちは何を期待されているのか」を肌で感じる貴重な機会となるからです。現に、他の大企業から転職してきた社員からは、「これだけの規模の会社の社長が毎週社員に語りかけるのはこれまで経験がない。社長の今の考えを知れるいい機会だ」という声が聞かれました。

 特に重要なのは、「今」というリアルタイム性です

 ビジネスの変化が激しい現代においては、数ヶ月前の戦略や方針はすぐに古くなってしまうこともあります。そのような状況の中で、三木谷さんが「今」考えていることを毎週共有することで、会社全体が「今この瞬間の現実」に対して高い感度を持って動けるようになります。

 この月曜朝会によって、多くの企業で生まれがちな経営と現場の間の情報のズレが、楽天では極めて小さく抑えられています。社員一人ひとりが、トップの思考や方向性を理解した上で、自分の業務の優先順位やアクションを組み立てることができるからです。これが、楽天というスピード感のある組織を支える、大きな仕組みの一つになっています。