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 消費者のニーズが多様化する中、チェーン小売企業にとって出店における攻めと守りの戦略をどのように描くかが事業成功の大きなポイントとなる。本稿では『チェーン小売企業の出店戦略』(西川みな美著/千倉書房)から内容の一部を抜粋・再編集。

 
チェーン小売企業によるドミナント出店が進む中、「標準化」と「地域適応」というジレンマに直面している販売活動。両立の難しい2つのバランスをどう取るかが、持続的成長の鍵となる。

なぜドミナントを形成するのか

チェーン小売企業の出店戦略』(千倉書房)

 多数の自社店舗を同じ地域に集中的に出店すること(ドミナントの形成)の経済性は、経済学、経営学、マーケティングなど幅広い領域でいくつかの観点から説明がなされてきた。

 それらは大きく分けると、企業内部のチェーン・オペレーションへの影響と、競合他社への影響に見ることができる。本節では、ドミナント出店の背景にあるチェーン小売企業特有のジレンマを確認したうえで、上記の2つの影響について順に検討する。

■チェーン小売企業が抱えるジレンマ

 チェーン小売企業がドミナント出店を推進する背景には、序章で触れた店舗商圏の地理的制約の克服と地域市場の異質性というチェーン小売企業特有のジレンマがある。この点について、いま一度検討しよう。

 小売市場の最も重要な特質は、消費者の買物行動範囲によって市場の地理的範囲が制約されることである(近藤 2002;田村 2001)。ある小売店舗の地理的市場範囲は商圏と呼ばれ、その広さは品揃えや店舗規模によって異なるものの、きわめて限定された地理的領域にとどまる。これは、小売企業の成長がこの絶対的な外的条件に制約されることを意味している(近藤 2002)。