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 消費者のニーズが多様化する中、チェーン小売企業にとって出店における攻めと守りの戦略をどのように描くかが事業成功の大きなポイントとなる。本稿では『チェーン小売企業の出店戦略』(西川みな美著/千倉書房)から内容の一部を抜粋・再編集。

 イケア、ウォルマートなどの進出後も、売り上げを維持する企業と淘汰される企業は何が違うのか。「店舗間競争のスピルオーバー効果」から見える生き残りの条件とは?

■ 他社店舗との共存が店舗成果および競争行動に及ぼす影響

チェーン小売企業の出店戦略』(千倉書房)

 たとえば、Kalnins(2016)では、米国90都市のホテル市場を対象に、2000年~2014年のホテルの撤退行動を分析した結果、近隣に類似した価格帯・規模のホテルが多い場合に市場から撤退するリスクが高まることが観察された。

 Daunfeldt et al.(2019)では、スウェーデンにおけるIKEAの出店が近隣の既存店舗の売上に及ぼす影響について、IKEAと補完的な商品を扱う小売店舗(家具やインテリア用品以外の業種)の売上は増加した一方で、IKEAと競合する商品を扱う小売店舗の売上は減少したことが確認されている。

 これらの研究は概して、同種の店舗・企業との共存は競争による成果悪化をもたらすことを示しているが、この市場競争に店舗がいかに反応・対応するのかという点に目を向けると、やや異なる様相が見えてくる。それというのは、競争への反応行動を分析した研究では、店舗・企業によっては競争に適応し、むしろパフォーマンスを高めうることが示唆されているのである。

 これらの研究によると、店舗・企業は競争に対応するべく、販売局面での品揃え・サービスの差別化や低価格化、あるいは、バックエンドでの技術投資や管理手法の改善によるオペレーションの効率化に注力するため、その結果として生産性が向上するという(Basker & Noel 2009;Matsa 2011;Watson2009;Maican & Orth 2017)