2025年現在、最先端の生成AIは博士号取得者並みの専門知識を備え、研究の自動化も実現している。これから世界はどう変わるのか。そして、日本においてビジネス上の変化は起こるのか。AI研究者であり、ベストセラー『生成AIで世界はこう変わる』の著者でもある今井翔太氏が語る、最新の研究を基にした生成AI技術の発展と展望とは――。

※本稿は、Japan Innovation Review主催の「第7回 AIイノベーションフォーラム」における「特別講演:生成AIで世界はこう変わる/今井翔太氏」(2025年6月に配信)をもとに制作しています。

2つの「スケーリング則」によって読み解く生成AIの進化

「生成AIの進化がすごい」と各所で言われますが、一体、何がすごいのでしょうか。これを理解するための1つのキーワードが、「スケーリング(Scaling=規模を拡大すること)」です。

 AI研究において重要なスケーリングは2種類あります。1つは、ニューラルネットワークによる学習規模。もう1つは、AIに考えさせる時間です。すでにさまざまな研究論文によって、これらに関する「スケーリング則」が明らかになっています。

 1つ目のスケーリング則は、「学習データ、計算量、パラメータ数(AIの大きさ)の3つの要素を増やすことで、AIの性能が‟べき乗則“に従って無限に向上する」というものです。

 この3つの要素を増やすために必要なのは、お金です。つまり、資金を投入すればするほど、AIの性能が上がるということです。このスケーリング則に関する論文が2020年にオープンAIの研究者によって発表されて以降、GAFAM(Google・Apple・Facebook※現Meta・Amazon・Microsoftの総称)などのビッグテックによる生成AIへの投資が活発化していきます。

 ただし、特にChat GPTに代表される言語系の領域では、このスケール則の限界が指摘されるようになりました。そんな2024年の後半に出てきたのが、「AIに考えさせる時間を増やせば、性能が無限に上昇していく」というスケーリング則です。

 例えば、同じテスト勉強をした学生AとBが同じテストを受けるとき、Aの制限時間は5分、Bの制限時間は60分であれば、当然Bのほうが良い点数を取ります。これと同じで、考えさせる時間を長くすればするほど、AIが賢くなっていくということです。

 これは、「推論時スケーリング則(Test-time Scaling Law)」と呼ばれています。その登場は、生成AIに新たな進化をもたらしました。これから何が起こるのか、詳しく述べていきます。