ファーストリテイリング 代表取締役会長兼社長 柳井正氏
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 経済産業省が指摘した「2025年の崖」問題――老朽化した基幹システムの刷新が進まず、DXが停滞すれば巨額の損失が発生する。その背景には、IT投資を巡る日本企業固有の実態がある。本稿では、『全社デジタル戦略 失敗の本質』(ボストン コンサルティング グループ編/日経BP)から、内容の一部を抜粋・再編集。日本企業が犯しやすい失敗とその乗り越え方を解説する。

 IT・デジタル投資を成功に導くために、経営者がまず注意すべき3つのポイントとは何か?

日本企業特有の3つのポイント

 これら4つのマインドは、通常の事業を行う上で必要なマインドと大して変わらない。だが、IT・デジタルは事業を進める上で必要不可欠な要素になっているにもかかわらず、経営者にとっては本業ではないため、事業を拡大するためのIT・デジタルというストーリーは後回しになりがちであり、関心も低い。

 続いて、4つのマインドを念頭に置きつつ、日本企業が特に注意すべきポイントを3つ挙げる。

■ 箱だけつくって満足していないか

「弊社は中期経営計画にもビジョンに基づいたアクションにおいても、IT・デジタルを活用した改革を中枢に置いています」。こういったコメントをよく耳にする。しかし、「デジタル推進室」などの「箱」をつくって、そこに人をあてて満足していないだろうか。その部門のポジションややるべきこと、投資判断、優先順位、事業トップの思考とそのギャップ、現場のやりたいことと抵抗、そういったことを、「箱」にあてた人材に丸投げしていないだろうか。何か問題が起こったときにだけ、「どうしてそうなるんだ! 説明してほしい!」と言ってしまっていないだろうか。

 これでは何も変わらないし、変わるはずもない。優秀なCIOやCDOがいてくれれば… と嘆きたくなるかもしれないが、優秀なCIO・CDOは、意志と思いを持ったCEOのもとでこそ有能な右腕となり活躍してくれるものだ。

 また、人事の実態が伴っていないケースも多い。IT・デジタルの全体戦略を描く人材と、その戦略を実行していく人材の特性はまったく異なる。経営企画という箱とデジタル推進という箱を設ければ何とかなるわけではない。そこには、事業特性、事業環境を理解し、投資と成果のバランスが取れた戦略的思考力に優れたリーダーと、実行力もしくは調整力に強みを持つリーダーの2種類の人材が必要である。そういう人材はなかなかいないのも事実だが、育成していくことが経営者の役割だと言える。