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 スマホやパソコン、家電、自動車など、生活に密着した機器の製造に不可欠な半導体。生成AI時代の到来でその重要性は増しており、米中覇権争いが熾烈(しれつ)を極める中、経済安全保障における最も重要な戦略物質と目されている。一方で、製品はメモリ、CPU(MPU)、センサーなど多種多様、多数のメーカーが製造工程ごとに世界中に点在しており、産業構造はあまり知られていないのが実態だろう。そこで本連載では、日本電気で一貫して半導体事業に携わった菊地正典氏の著書『教養としての「半導体」』(菊地正典著/日本実業出版社)から、内容の一部を抜粋・再編集。

 今回は、半導体産業の全体像をつかむべく、各関連業界とその役割を解説する。

本稿は「Japan Innovation Review」が過去に掲載した人気記事の再配信です。(初出:2024年7月12日)※内容は掲載当時のもの

半導体産業にはどんな業界があり、 どんな業務を担っているのか?

 半導体産業は広い裾野をもち、多種多様な数多くの関連業界から構成されています。また各業界に属する企業群や関連する研究機関なども多くあり、しかもそれらがグローバルな広がりの中で相互に複雑に関連し合って産業全体を構成するという構図になっています。業界関係者ならいざ知らず、そうでない人々にとっては複雑怪奇、伏魔殿のような世界です。

 そこで最初に半導体産業の全体的イメージをつかむため、半導体産業にはどんな業界が含まれているのか、さらにそれらの各業界はどんな役割を担っているのかについて見ておくことにしましょう。

■ 半導体メーカー(IDM)と大手IT企業

 インテルやサムスン、キオクシアなどの名前は聞いたことがあるでしょう。これらのいわゆる半導体メーカー(垂直統合デバイスメーカー)と呼ばれる企業群は、「半導体の設計から製造、さらに販売」に至るまでの半導体の一貫工程を自社ですべて行なう企業(業界)のことです。半導体業界では、一般にこれをIDM(アイディーエム:Integrated Device Manufacturer)と呼んでいます。

 これに対し、グーグルやアップル、アマゾンなどの有名な大手IT企業の多くは、半導体の外販は行なわず、もっぱら自社で必要とする半導体の設計だけを行ない、製造面は専門のメーカー(ファウンドリー、OSAT[オーサット]などの企業)に委託します。大手IT企業も半導体業界の一つなのです。