
V8エンジンという驚きのチョイス
それはあっと驚くような発表だった。
新型のベントレー・ベンテイガ・スピードに搭載されることになったのは、ハイブリッドの類いを一切持たない純粋な内燃エンジン。しかも、ハイパフォーマンスが売り物のグレードである“スピード”なのに、従来の6.0リッターW12ツインターボから新型は4.0リッターV8ツインターボへと“ダウングレード”されたのだ。
この発表に私が驚いた理由はいくつもある。
第1に、ベントレーが属するフォルクスワーゲン・グループといえば、既存の自動車メーカーのなかではもっとも電動化に熱心だったといっても過言ではない存在。事実、同じグループのランボルギーニは全モデルのプラグインハイブリッド化をすでに完了。ベントレーも新型のコンチネンタルGTスピードやフライングスパーにV8ツインターボ+プラグインハイブリッド・システムを搭載し、高性能化と電動化を両立させていた。そんな彼らが送り出す最新モデルに電動化がまったく施されていないという点が、まず不思議だった。

もうひとつの驚きは、新型に搭載される4.0リッターV8ツインターボ・エンジンが、従来型ベンテイガ・スピードの6.0リッターW12ツインターボ・エンジンよりもむしろパワフルだった点にある。ちなみに最高出力はW12の635psに対してV8は650psを達成。その差はわずかだが、車重が40kgほど軽くなった効果もあって、0−100km/h加速は3.9秒から3.6秒へと短縮されたほか、最高速度は306km/hから310km/hと伸びている。
こんな説明を聞いて「最高速度が306km/hだろうが310km/hだろうが、実用上、関係ないだろう」と思われる方がいても不思議ではない。私自身も「306km/hのクルマより310km/hのクルマのほうが優れている」と単純に決めつけるつもりは一切ない。しかし、ベントレーのようなラグジュアリークラスでは「新型になって性能が下がった」というモデルチェンジは基本的にありえない。そもそもラグジュアリーカーというのはぜいたく品であり、実用的に必要な水準をはるかに超えた装備や性能を有している点に価値がある。だから、いくらエンジンをV8にしたからといって性能でW12を下回ることは許されないのだ。
私は先ほどアメリカ・モンタナ州で開催されたベントレーの国際試乗会で新型ベンテイガ・スピードをテストするとともに、関係者への取材などを通じて前述した疑問の解消を試みたので、その結果をここでご紹介しよう。
