既報の通り、ジャガーはこれまでのジャガーと大きく異なるブランドイメージを打ち出し『TYPE 00』というコンセプトモデルをお披露目した。この発表時に、大谷 達也氏は、新しいジャガーを率いるマネージングディレクター ロードン・グローバー氏へのインタビューを実施。その内容には変革期におけるビジネスのヒントがたくさん詰まっている。
そこで今回は、このインタビューをベースに、JBpress オートグラフ編集長・鈴木 文彦が、今度は大谷 達也氏をインタビューする形で、新生ジャガーの注目ポイントを解釈する。
今回話題にするインタビューは大谷 達也氏のYouTubeチャンネル「The Luxe Car TV」にて公開中
1. ジャガーは高くなる
鈴木 大谷さんがジャガーのロードン・グローバーさんをインタビューしたYouTube動画をひと足先に拝見したところ、示唆に富んだ刺激的な内容で本当に素晴らしいと感じました。ぜひ、これは多くの人に見ていただきたいとおもったのですが、同時に提案をしたくなりました。このインタビュー動画を理解する助けになるような補助線を引くというのか、その背景、文脈を大谷さんに解説してもらいたい! というのが今回の提案です。

大谷 私たちのこの対談は、そのためのものなんですね?
鈴木 はい。インタビュー動画で、まず気がついたのは、今回、ジャガーは価格帯をかなり上げようとしているらしい、ということです。これまでのジャガーは、いわゆるドイツ・プレミアムブランド(BMW、アウディ、メルセデス・ベンツ)とだいたい同じようなクラス感だった。それを、ベントレー、アストンマーティンがいるところまで引き上げようとしているのかとおもいます。
大谷 このインタビューでは具体的に語っていませんが、どうやらベントレーに近いところまで持っていくみたいです。

鈴木 動画のなかで同じグループ内のレンジローバーが引き合いに出されていました。レンジローバーも高級車ですが、こちらは徐々に値段が上がっていって、いまの価格になっているという印象があります。

大谷 そうですね。その意味でレンジローバーの価格上昇は積み上げ式といえますが、ジャガーのほうはガツンと意図的に上げようとしていますね。
鈴木 どうしてそうなったんですか?
大谷 これはあくまでも私の推測ですが、レンジローバーって、商業的にはずーっと成功してきた。だから、いきなりクラスを変える必要はなかった。ただし、メーカーとしてよりよいレンジローバーを追い求めていったら、結果としてこの価格帯になったという気がします。
鈴木 いっぽうジャガーは?
大谷 正直にいって商業的に成功していたとはいいがたい。だから、いまとは違うところに飛んでいって、勝負を仕切り直そうとしていると考えられます。インタビューのなかでグローバーさんは「ジャガーが成功していたのは決まって裕福な時代」、つまり価格が高かった頃と指摘していますが、そういった過去の経験も、今回の判断に影響を及ぼしたのかもしれませんね。
これまでと違う「ブランドの若返り」
鈴木 ジャガーは若返りを目指している、というところも興味深くおもいました。“若返り”というキーワードは、自動車業界では10年に1回くらいの頻度で繰り返し登場しているような気がしますが、今から10年くらい前を思い出すと、たとえばメルセデス・ベンツが新型Aクラスを投入して顧客の若返りを果たしました。それまでと全然違うアグレッシブなデザインとメルセデス・ベンツとしては手頃な価格で間口を広げたわけです。


鈴木 でも、今回、ジャガーの選択はあきらかにそれとは違う。真逆といってもいいかもしれない。
大谷 これまで自動車業界で若返りといえば、たしかに低価格化や製品のスポーツ化を目指すことが多かった。でも、その頃とは時代が完全に違いますよね。いまは、ニューリッチといって、若いけれどメチャクチャ裕福で、消費行動に対して積極的な層が存在します。今回、ジャガーが目指したターゲットカスタマーのなかに、そういった人々が含まれているのは事実でしょう。
