では、実際に試乗した印象はどうだったのか。

 前述のとおり、ベンテイガ・スピードは通常のベンテイガよりも高性能との位置づけだが、乗り始めてみると足回りから伝わるゴツゴツとした印象が弱く、快適性は通常のベンテイガとほとんど変わらない。これは、コンフォート、B、スポーツが用意されるドライビングモードのうち、コンフォートとベントレーお勧めのBは通常版と変わらない設定にされているためである。いっぽうでスポーツにしても極端に足回りが硬くなるわけではなく、個人的にはこのまま走り続けても構わないと思ったくらい。こうした、スポーツモデルでも快適性を重視する姿勢は、ベントレーのようなラグジュアリーブランドにとって欠かすことができないものといえる。

 W12を上回るというパフォーマンスについては、明確にその差を感じなかったものの、低回転域から迫力ある加速を示したW12時代のベンテイガ・スピードに対して、V8エンジン搭載モデルはより軽快に加速するように感じられた。しかも、W12エンジンよりもV8エンジンは軽量なので、それだけハンドリングの反応も俊敏になる。この辺もスポーツ派ドライバーには嬉しいところだろう。

 しかも、ベンテイガ・スポーツにはESCダイナミックと呼ばれるモードが用意されており、これを選ぶとスタビリティコントロール(車両がスピンするのを電子制御システムが防いでくれる機能)の効きが弱くなるほか、コーナリング時に内側の車輪だけに弱いブレーキをかけて車両の姿勢を制御するブレーキ・トルクベクタリングにより、コーナリング中に後輪がアウトに流れるテールスライド状態を作り出せるという。これはオフロードコースで試すことができたが、電子デバイスが作動しているとは思えない自然な効き方が印象的だった。

 もっとも、これらはあくまでも贅沢装備の一部。ベンテイガ・スピードの本質は、美しく作り込まれたインテリアを愛でながら、ゆったりとしたドライビングを楽しむことにあるはず。その点でも、イギリスでハンドメイドされるベントレーは、工場で大量生産されるプレミアムブランドとは一線を画した喜びをもたらしてくれるはず。これぞ、イギリス・ラグジュアリーブランドの面目躍如といったところだろう。