
オート上海は百花繚乱なるも……
巨大な会場「国家会展中心」で開かれていたモーターショー「オート上海2025」のプレスデイに並べられていたクルマは、どれも印象的なものばかりでした。
特に、NEVと呼ばれる新エネルギー車(EVとPHEV)を専門で製造しているメーカーの勢いに眼を見張らされました。

一昨年から日本でも乗用車ビジネスを開始し、昨年度は世界販売台数でテスラを抜いた「BYD」、独自のバッテリーのカセット式交換システムを中国全土3000か所以上に設置している「NIO」、昔から政府高官用のリムジンを造り続けてきた「紅旗」が新たに造り始めた一般ユースのSUVやコンパクトカーなど。ジーカーやシャオミ、シャオペン、リ(理想汽車)、チェリーなどの有名メーカーを筆頭に無数のスタートアップ企業も新型車を出展していて、まさに百花斉放です。
ただ、ほとんどのNEVはとても良く似ています。空気抵抗を減じるために滑らかな曲面と曲線によるボディに薄く細いヘッドライトが組み合わされ、4ドアや5ドアばかり。スーパースポーツ以外は、コンパクトカーでも2ドアは記憶にありません。
車内は、ドライブシャフトや排気管、トランスミッションなどが最初から存在しないためにフラットな床と広い居住空間が確保されています。1枚ないし2枚のモニター画面は広く大きく、そこにさまざまなエンターテインメントを映し出し、あらかじめインストールされたアプリをタッチや音声で操作して多くの機能を働かせることができるところも、すべてのクルマに共通していました。
日本ではあまり普及しなかった、モニター画面の左右にはカメラで後方を映像として映し出す画面があるクルマも多い。

中には、「アバター06(AVATR 06)」のようにリアウインドウのガラスの代わりにカメラを組み込み、真後ろの後方視界をガラス越しではなくカメラによる映像に切り替えているものもありました。カメラやセンサー、ライダーなどによって自車の周囲をつねに把握してADAS(運転支援機能)と連動させ、運転の自動化を促進しようとしています。

程度の差こそあるものの、進化させようとしている技術の方向性やハードウェアの内容、訴求している商品としての魅力などはほとんどのクルマが変わりません。大きく太い傾向が中国のNEVには勢い良く貫かれています。欧米や日本の自動車メーカーなども、メーカーごとの個性を維持しながら、それに歩調を合わせています。
巨大な会場で異彩を放っていたクルマは?
オート上海2025が行われた会場は四葉のクローバーのような形をしていて、4枚の葉っぱはそれぞれ1階と2階に分かれています。併せて8つの広大なスペースに、世界中の自動車メーカーや部品、ソフトウェアメーカーなどが出展していました。

その勢いと物量に圧倒されながら、4月23日と24日のプレスデイで合計5万歩以上歩きました。その中で、1台だけ異彩を放っているクルマがありました。アウディの「E5スポーツバック」という中国専用EVです。SAIC(上海汽車)と共同開発されました。

全長4881✕全幅1959✕全高1478mmの5ドアハッチバック。後輪駆動版と4輪駆動版があり、モーター出力は220kW(299ps)から579kW(787ps)までの4種類。航続距離は770km。0-100km/h加速3.4秒。

最先端の高性能EVですが、僕が着目したのは、E5スポーツバックのフロントマスクとテールゲイトです。なんと、アウディのシンボルマークとなってきた4本の輪「4シルバーリングス」が存在せず、代わりに「AUDI」という文字がバッジになっているのです。それら2か所だけでなく、AUDIのロゴは車内外に添えられています。

4シルバーリングスが付いていないアウディなんて初めて見ました。ポルシェ博士が設計し、戦前のグランプリシーンを席巻した超先進的な「Pヴァーゲン」のタイプAからDまでのノーズに誇らし気に描かれていた、あの4シルバーリングスが、どこにも無いのです。

今まで、アウディは「技術による前進」というキャッチフレーズを掲げて来ました。Pヴァーゲンだけでなく、4輪駆動の「クワトロ」システム、アルミシャシー、5気筒ディーゼルエンジンなど、独自に開発してきた技術によって他メーカーのクルマとの違いを出し、優秀性をアピールしてきました。4シルバーリングスは、アウディがアウディたる必然性が託された象徴だったのです。